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2024.11.16

「平安文学、いとをかし―国宝『源氏物語関屋澪標図屏風』と王朝美のあゆみ」(静嘉堂文庫美術館)開幕レポート

平安文学をテーマにした日本美術の名品を紹介する「平安文学、いとをかし―国宝『源氏物語関屋澪標図屏風』と王朝美のあゆみ」が東京・丸の内の静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)で始まった。会期は2025年1月13日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、
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修理後初公開の絵巻

 平安時代から現代まで、人々を魅了し続ける平安文学の世界。そんな世界に連れて行ってくれる展覧会「平安文学、いとをかし―国宝『源氏物語関屋澪標図屏風』と王朝美のあゆみ」が、東京・丸の内の静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)で開幕した。担当学芸員は藤田紗樹。

静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)

 本展は、「平安文学の世界にようこそ!」「絵巻物で読む物語」「時代を超える『源氏物語』」「平安古筆と料紙装飾の美」の4章構成。

 和歌を美しく記すために平仮名が発展し、これに伴い平安時代中期から後期(10世紀~11世紀)にかけて仮名文学の最盛期を迎えた。1章では、「古今和歌集」(南北朝〜室町時代 14〜15世紀)や「蜻蛉日記」(1697)、「更科日記」(1704)など、静嘉堂文庫所蔵の古典籍から、王朝文学が花開いた平安時代中期以降の作品が紹介される。

展示風景より、「古今和歌集」(南北朝〜室町時代 14〜15世紀)

 続く2章は、平安時代の出来事や物語を題材とした絵巻物が主役。なかでも注目したいのが、修理後初公開となる重要文化財「住吉物語絵巻」(鎌倉時代 14世紀)だ。継母に虐げられる姫君と、その姫君を一途に思う少将の恋を描いたこの住吉物語。その絵画は静嘉堂本と東京国立博物館本の二種類があり、本作は後者に次いで古いもの。詞書は住吉物語のまとまった分量の本文として現存最古だという。また、藤原氏の栄華を描いた『栄花物語』の一場面、「駒競行幸絵巻」も同じく修理後初公開となった。

展示風景より、重要文化財「住吉物語絵巻」(鎌倉時代 14世紀)
展示風景より、重要文化財「住吉物語絵巻」(鎌倉時代 14世紀)

初公開の紫式部図や俵屋宗達の国宝も

 3章は、時代を超えて読み継がれ、様々な芸術にインスピレーションを与えてきた紫式部の傑作『源氏物語』にフォーカスしたもの。

 土佐光起による《紫式部図》(江戸時代 17世紀)は細密描写が存分に生かされたもので、文机に肘をつき、手に筆を取る姿は石山寺で琵琶湖に映る月を見て『源氏物語』を書き始めたという伝承に基づくもの。本展が初公開だ。

展示風景より、土佐光起《紫式部図》(江戸時代 17世紀)
展示風景より、住吉具慶《源氏物語図屏風》(江戸時代 17世紀)

 本展のハイライトは国宝である俵屋宗達の《源氏物語関屋澪標図屏風》(1631)だ。本作はその名の通り、「関屋」と「澪標」の場面を各隻に描いて組み合わせた作品。ともに、光源氏と女君の邂逅の場面だが、主人公の姿は明示させず牛車と舟でその存在を暗示している。関屋の山や澪標の太鼓橋など、大胆な画面構成からは宗達の優れた感性が見出せるだろう。なお本作はもともと京都の醍醐寺に伝わったもので、1895年頃に三菱財閥2代目で静嘉堂文庫美術館の礎を築いた岩﨑彌之助(1851〜1908)が醍醐寺に寄進した返礼として岩﨑家に贈られたものだという。

展示風景より、国宝 俵屋宗達《源氏物語関屋澪標図屏風》(1631)
展示風景より、国宝 俵屋宗達《源氏物語関屋澪標図屏風》(1631、部分)
展示風景より、国宝 俵屋宗達《源氏物語関屋澪標図屏風》(1631、部分)
展示風景より、《源氏物語蒔絵源氏箪笥》(江戸時代 18〜19世紀)

静嘉堂文庫美術館初の現代作家の展示も

 最終章は、11世紀から12世紀にかけての調度手本の名品から、平安古筆と料紙装飾の美の世界を紹介するもの。書に堪能な人物(能書)が揮毫した「古今和歌集」や「和漢朗談集」などの作品は、身の回りにおいて鑑賞する調度品「調度手本」として重宝された。本章に展示された国宝「倭漢朗詠抄 太田切」(平安時代 11世紀)は、北栄からもたらされた唐紙に、日本で金銀泥で花鳥や草木の下絵を描き加えた料紙を用いたもの。まさに調度手本の代表的な作品だ。

展示風景より、国宝「倭漢朗詠抄 太田切」(平安時代 11世紀)

 なお今回、静嘉堂文庫美術館にとって初となる現代作家の展示として、ガラス作家・山本茜(1977年石川生まれ)による作品も登場した。山本はライフワークとして源氏物語五十四帖の、透明なガラスの中に截金を閉じ込めた「截金ガラス」という独自の手法による作品化に取り組んでおり、現在二十二帖分が完成している。会場ではそのうちのふたつ、「空蝉」(第三帖)と「橋姫」(第四十五帖)を見ることができる。

展示風景より、山本茜《源氏物語シリーズ第三帖「空蝉」》(2019)
展示風景より、山本茜《源氏物語シリーズ第四十五帖「橋姫」》(2021)

 この展示は、同時代の作家を支援してきた岩﨑彌之助らの精神を受け継いだ試みであり、同館では今後も現代とのつながりを模索していくという。