• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「菊池コレクション 現代陶芸のすすめ」(菊池寛実記念 智美…
2025.1.18

「菊池コレクション 現代陶芸のすすめ」(菊池寛実記念 智美術館)開幕レポート。日本の現代陶芸の展開をたどる

菊池寛実記念 智美術館で、「菊池コレクション 現代陶芸のすすめ」展が始まった。1970年代から80年代の作品を中心に、日本の現代陶芸における革新と多様性を紹介する内容だ。会期は5月6日まで。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
前へ
次へ

 日本の現代陶芸の多様な可能性を紹介する展覧会「菊池コレクション 現代陶芸のすすめ」が、菊池寛実記念 智美術館で開幕した。会期は5月6日まで。

 1983年、アメリカのスミソニアン国立自然史博物館で「Japanese Ceramics Today(現代日本陶芸展)」が開催され、現代陶芸のコレクターだった菊池智(1923〜2016)のコレクションから、100名の日本の陶芸作家による約300点の作品が展示。同展は2003年に菊池寛実記念智美術館の開館のきっかけともなった。今回の「現代陶芸のすすめ」は当時の展示作品を中心に構成されたものだ。

展示風景より

 同館では昨年、「走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代」と題された展覧会を開催し、戦後に誕生した前衛陶芸家集団・走泥社の活動を1950年代から70年代前半の作品で紹介した。今回の展覧会では、その後の1970年代から80年代の作品を中心に、43名の作家による61点の作品を通じて、日本の現代陶芸の展開をたどっていく内容だ。

展示風景より

 会場は大きく分けて、ふたつのテーマに基づいて構成されている。前半は器の形態の作品で、後半は実用性を持たないオブジェ的造形作品だ。本展の担当学芸員・島崎慶子(菊池寛実記念智美術館・学芸課長)は開幕にあたり、次のように述べている。「陶芸というと器を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、そのジャンルのなかで器ではない形態をつくった作家たちがどのような思いを込めていたのかをご覧いただき、その作品が交錯する空間で何が見えてくるのかを感じていただければと思います」。

 前半の「器の形態に表される個人の制作」では、現代陶芸における器形態がどのように個人の表現として昇華されるかを探る。皿や鉢、花器、茶碗といった伝統的な器のかたちが、作家個々の視点を反映した作品として紹介されており、また日常的な器の形状が、たんなる機能を超えて芸術的な表現へと変容する過程を示している。

展示風景より、富本憲吉《白磁八角共蓋飾壺》(1932)

 例えば、本展の展示作品においてもっとも古い作品である富本憲吉の《白磁八角共蓋飾壺》(1932)は、白磁の壺に八角形の輪郭が描かれた外観が特徴的だ。空間のなかに立体を立ち上げ、壺を抽象的な造形としてとらえるという視点が、明治時代生まれの作家の中にすでに存在していたことがわかる作品である。

展示風景より、左は加守田章二《彩色鉢》(1975)

 加守田章二は、「器のかたちではあるが、器ではない」という独特の表現を生み出し、器の形態に新たな解釈を加え、器としての機能性と芸術性を融合させる試みを行った。その作品《彩色鉢》(1975)は、形態、文様、色彩、質感を組み合わせることで、プリミティブな力強さと現代的な洗練を兼ね備えた造形を有している。

 河本五郎の作品は、量産するための型を使った制作が特徴的だ。河本はその技法を異なる視点でとらえ、その作品は、新しい時代に求められる焼き物とは何かを考えるひとつの成果と言える。

展示風景より

 後半の「陶のオブジェ的造形作品」では、用途を持たない陶芸作品—オブジェが紹介されている。戦後の1947年に四耕会、48年には走泥社が京都で結成され、前衛陶芸が芽吹いていった。これらの団体は、陶芸と他分野の芸術表現との融合を目指し、素材や技術、制作方法に新たな視点を持ち込んだ。また、この時期の陶芸はたんなる実用品の枠を超えて、芸術的表現の場として変容を遂げた。

展示風景より、右は八木一夫の作品

 走泥社のリーダー的な人物だった八木一夫は、黒陶の技法を用いた作品を制作した。黒陶は、低温で不完全燃焼させることによって、窯内で発生したすすが土に吸着し、黒くなるという特徴を持つ。この技法を使うことで、収縮や変形が少なく、より精密なかたちを表現することができる。八木は、この伝統的な技法を現代的な視点で逆手にとることで、独自の表現を生み出した。

展示風景より、左は川上力三《座 1981》(1981)

 同じく走泥社に所属していた川上力三の《座 1981》(1981)も、陶芸が持つ伝統的な枠組みを超えた作品だ。陶でつくられた座布団のうえに置かれた椅子が割れた姿が描かれたこの作品は、反権力的なメッセージを込めた造形となっている。

展示風景より、三輪龍氣生《ハイヒール》(1979)

 また、三輪龍氣生の作品《ハイヒール》(1979)も、伝統的な萩焼の土と釉薬を使用しながらも、現代的な感覚を取り入れた陶芸作品の例として紹介されている。轆轤でつくられたパーツを組み合わせてハイヒールのかたちをつくったこの作品は、陶芸で作家自身の内面性を表現する方法を直感的に示している。

最後の展示室

 最後の展示室では、主にスミソニアンで紹介された壺の作品が集まっている。島崎は、「轆轤を使えば完璧なかたちをつくることができる」と話す。しかし、このセクションで強調されるのは、器のなかに作家としての思想を込めることで、その形が何を意味し、どのような形態であるべきかが問われるという点だ。

 また、器ではない形態を制作する際には、その背後にある考え方や理由も重要であり、陶芸固有の表現にこだわらない自由な土の使い方も現代陶芸の魅力だ。「器とオブジェは地続きにつながっており、そのような焼き物の世界における作家たちの異なる角度や深さを、作品を通じてひとつずつ検証していくことで、現在の陶芸の面白さをより深く感じていただけたら」と島崎は述べている。

 1970年代から80年代にかけての日本の陶芸の変遷を反映しており、現代陶芸における作家たちの革新的な試みを紹介する本展。日本の陶芸がどのように伝統を超えて進化してきたのか、そしてそれがいかに現代美術と交差しているのかをぜひ会場で確かめてほしい。

展示風景より