杉本博司の原点と究極がここに。「小田原文化財団 江之浦測候所」がついにオープン
写真のみならず伝統芸能など様々な領域で活動する杉本博司が、自らのこだわりを詰め込んだ施設「小田原文化財団 江之浦測候所」を10月9日に開館させる。その見どころとは?
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「小田原文化財団 江之浦測候所」は、小田原市江之浦地区の箱根外輪山を背に、相模湾を望む地に誕生した施設。杉本博司が施主で、新素材研究所(杉本博司、榊田倫之による設計事務所)が主体となり、構想から竣工まで20年以上の歳月をかけて進められてきた大プロジェクトだ。敷地面積は9496平米。杉本が蒐集してきた古美術や、光学ガラスなどがふんだんに使用されたこの巨大施設の見どころを紹介する。
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まず来館者を迎えるのは、室町時代に鎌倉の建長寺派明月院の正門として建てられた「明月門」だ。関東大震災で半壊したのち、根津美術館の正門として利用されていたものを受贈するかたちで解体修理し、再建。堂々たる姿には目を見張るものがある。
敷地の中ほどには石舞台があり、石橋の軸線は春分秋分の朝日が相模湾から昇る軸線に合わせて設定されている。
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そしてその奥に佇むのが、この施設でもっとも注目すべき「光学硝子舞台と古代ローマ円形劇場写し観客席」だ。冬至の日の出の軸線に合わせてつくられた約70メートルの隧道(「冬至光遥拝隧道」)に沿うように設計されたこの舞台は、檜の土台の上に杉本が多用する光学硝子を敷き詰めたもの。
フェレント古代ローマ円形劇場遺跡を実測して再現した観客席からは、硝子舞台と相模湾の水平線の共演を目にすることができる。この相模湾の水平線は、杉本自身「生まれて最初に記憶している風景」としており、これが後の代表作「海景」につながっている。いわば杉本の原点とも言える風景と、最新の作品が同時に見られる場所だ。
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上述の「冬至光遥拝隧道」と対をなすのが、「夏至光遥拝ギャラリー」。長さ100メートルのギャラリーの壁面は大谷石で覆われて、対面には一切の支えがない37枚のガラス窓が続く。ギャラリー内には海景シリーズが展示されているほか、先端部は海に向かって開かれており、実際の水平線を展望することもできる。
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このほか、千利休作といわれる茶室「待庵」を本歌取りとして構想された「雨聴天」(当然、「有頂天」とかかっている)や、フランス旧家の石を使った階段、京都五条大橋の礎石など、敷地内すべてに杉本の美意識が行き届いており、見るものを飽きさせない。
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杉本はこの施設をつくることに熱中していたため、ここで今後何を行うかは未定だと言うが、多くのアーティストが興味を示しており、国内外のアーティストによるなんらかのプログラムを見ることができる日も遠くはないだろう。
1万1500坪にもおよぶ農地を取得しており、まだまだ開発の余地がある「小田原文化財団 江之浦測候所」。「寿命と資金が続く限り、点々と作品をつくっていこうと思っている」と杉本が話すように、これからも進化を遂げるに違いない「江之浦測候所」に注目したい。
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