バナナをテープで壁に貼り付けた作品を独占できるのか? 著作権法の「似ている」と「似ていない」を消化する
アート界に大きなサプライズをもたらしたマウリツィオ・カテランの《コメディアン》。ダクトテープでバナナを貼り付けた(だけ)のこの作品が、自身の著作権を侵害しているとしてジョー・モーフォードによって訴えられた。「見た目が似ている」ことと著作権法上の「似ている」はイコールなのか? ライフワークとしてArt Lawに取り組む弁護士・木村剛大が詳しく解説する。
マウリツィオ・カテランの《コメディアン》は、本物のバナナをグレー(シルバー)のダクトテープで壁に貼り付けた作品である。2019年のアート・バーセル・マイアミビーチで発表され、3つのエディションのうち2つがなんと12万ドル(当時の為替レートで約1300万円)、3つ目が15万ドル(約1600万円)で売れたことで話題を集めた(*1)。
このバナナが現在、米国で裁判になっており、2022年7月6日、フロリダ州南部地区連邦地方裁判所は、被告の請求却下の申立てを斥け、さらに審理を進める決定をした(*2)。
ジョー・モーフォード v. マウリツィオ・カテラン
米国のフロリダ州南部地区連邦地方裁判所で争われているジョー・モーフォード v. マウリツィオ・カテランでは、この《コメディアン》がモーフォードの作品《バナナ&オレンジ》の著作権侵害になるかが争点となっている。
カテランの《コメディアン》が、モーフォードがカテランの作品よりも前に制作し、発表した作品《バナナ&オレンジ》(2000)のバナナ部分と似ており、原告の著作権を侵害すると主張したのだ。ジョー・モーフォードもアーティストである。
最初にバナナをダクトテープで壁に貼り付けたら、それは著作権で独占できるのか? 今回は、この事例を素材として著作権法の大きなポイントである「似ている」と「似ていない」をどう判断するか、少し掘り下げてみよう。