アーティストが知っておくべき著作者人格権
著作権を考えるうえで必須の「著作者人格権」。著作者の人格的利益を守るこの権利について、ライフワークとしてArt Lawに取り組む弁護士・木村剛大が解説する。
2023年2月、渋谷のミヤシタパーク内のホテル最上階のレストランに設置されたアーティスト吉田朗の作品《渋谷猫張り子》がアーティストに無断でラッピングシートを使用してレストラン運営会社により改変されて設置されていたことに関し、アーティストからの抗議がなされ問題になった。結果として、所有者である三井不動産からアーティストに作品は返還された(*1)
著作者人格権の侵害になる典型例だが、著作者人格権について理解しているだろうか?「著作権」というときには(1)著作財産権と(2)著作者人格権の2つに分けて解説されるのが一般的だ。
そして、著作財産権は著作者の財産的利益を守り、著作者人格権は著作者の人格的利益を守るものだ。この説明自体は正しいが、より現実に即して言えば、著作財産権は「一次的には」著作者の財産的利益を守り、著作者人格権は「一次的には」著作者の人格的利益を守ると説明するほうがよいかもしれない。
例えば、自分の作品を消費されたくないので、グッズ化したくないというアーティストもいるだろう。そのようなアーティストのこだわりを保護するのは複製権という著作財産権である。著作財産権には財産的利益を守る側面があるが、別の側面もある。著作者人格権も、作品をいつ公表するかは財産的利益にも影響する場面があるが、これも著作者人格権が財産的利益を保護する側面も持つことを表しているだろう。
著作者人格権に関して聞いたことはあるが、実際にどのような行為がされたときに、著作者人格権が機能するのか具体的な判断には自信がないアーティストも多いだろう。
そこで、今回は美術の世界で問題となった事例を紹介しながら、著作者人格権についてまとめておこう。