2025.2.28

工芸の粋と出逢える「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」がオープン1周年。銀座を拠点とした「金沢の工芸」の発信地へ

金沢市が独自の工芸文化を発信する拠点として設立した「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」。そのオープン1周年を機に開催されている特別展とトークイベントの様子をお届けする。

文=山内宏泰 撮影=平舘平

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銀座の中心地で工芸5ジャンルを一挙に展観

 金沢の工芸文化の厚い伝統と、その土壌から芽吹く新しい才能を紹介するため、2024年に設けられたのが「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」である。

 その名の通り東京・銀座の中心地、泰明小学校や帝国ホテルなど風情ある建築もほど近い一角にあり、文化発信拠点としては申し分ないロケーションだ。1、2階にそれぞれ展示スペースを有しており、1階ギャラリーではアートとしての斬新な工芸表現を、2階ギャラリーは現代のライフスタイルにあう「生活工芸」を展示・販売している。

 施設オープン1周年を迎えた現在、1階ギャラリーでは「探求する工芸 Seek after KOGEI」展(〜3月27日)が開催されている。キュレーションを担当した工芸ディレクター・原嶋亮輔に、同展の成り立ちと見どころについて話を聞いた。

「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」外観
左から、原嶋亮輔(金沢クラフトビジネス創造機構 工芸ディレクター)、浜辺佳奈(KOGEI Art Gallery 銀座の金沢 ディレクター)

1階ギャラリーでは、「銀座の金沢」1周年を記念した特別展を開催中

原嶋亮輔(以下、原嶋) 今秋、「第6回金沢・世界工芸トリエンナーレ / 2025金沢・世界工芸コンペティション」が開催され、今年の応募が現在受付中です。こちらの過去の受賞作家の作品展を銀座の金沢1周年記念として企画しました。金沢の工芸における主たる5ジャンル、陶芸、漆芸、ガラス、染織、金工から1作家ずつ出品してもらい、展示を構成しています。

──5つのジャンルそれぞれの特質を比べながら、じっくり作品を見ることができるのですね。出品作家はそれぞれどのような作風でしょうか。

原嶋 陶芸の奈良祐希さんは、代々続く窯元に生まれましたが、ご自身は伝統にとらわれないオリジナルの陶芸の在り方を追求しています。建築家としてもご活躍されているからか、構築的な造形も見てとれます。ガラスの田中里姫さんは、この素材ならではの繊細な表現を突き詰めて制作されています。金工の水代達史さんは超絶技巧で自然のモチーフを表しますが、写実だけでなく形態をトランスフォームさせていく独特の感覚があります。

 染織の安達大悟さんはコンポジションを強く意識したデザインをつくり上げるのが特徴で、ファッションデザイナーとのコラボレーションなども数多く手がけています。そして漆芸の豊海健太さん、今作は昆虫のタマムシの羽の部分を大量に用いながら漆とあわせて平面作品を制作しています。漆芸の確かなスキルをベースに、自在な発想を展開する作家です。

奈良祐希による陶芸作品
田中里姫によるガラス作品
水代達史による彫金作品

──今展にかぎらず、展示作家・作品を選ぶときの基準として、伝統に基づきながらも表現としての新しさ、すなわち「モダン」が含まれているかどうかを重視されていると伺いました。

原嶋 工芸には伝統を受け継ぐ面と、現在の手法や流行を取り入れる柔軟性、双方の魅力があるので、どちらも兼ね備えた作家・作品をここでは見せていきたいです。工芸とアートの区分も、現在は随分と曖昧になってきました。アート領域から刺激を受けて制作している作家は多くいます。それでもどこか手の跡が感じられる作品は多く、そこが「工芸らしさ」のポイントと言えそうです。

安達大悟による染織作品
豊海健太による漆芸作品

2階ギャラリーでは、現代のライフスタイルにあわせた「生活工芸」を提案

 2階へと上ってみると、こちらは「生活工芸」を中心とした作品が並んでいる。購入して持ち帰り、実際に使えるタイプの工芸品を集めているというわけだ。同ギャラリーディレクター・浜辺佳奈に金沢における生活工芸の魅力を聞いた。

浜辺佳奈(以下、浜辺) 工芸のよさは見た目の美しさや第一印象もありますが、持ち帰って生活のなかに置いて使ってみると、 毎日少しずつ違って見えたり、ずっと後になってから知らない魅力に気づくこともあります。長い時間をかけて向きあう楽しさが、金沢の生活工芸にはたっぷりあります。

──幅広い層の方々、とくに最近では海外からの観光客も施設を訪問されるようですね。また、銀座は画廊街でもありますし、ギャラリー巡りをする人がコースに組み入れている可能性もありますね。

浜辺 北陸へ旅行した際に金沢の工芸に触れ、ファンになってくださった方が、「銀座で金沢の工芸にまた出逢えるなんて」と喜んでくださるパターンも多いです。手仕事の味わいが好きな方なら、国籍・年齢・趣味などを問わずにお気に入りのものを見つけられるかもしれません。能登半島地震の被災地を支援するため、 能登の伝統工芸の展示・販売も継続して行っていますので、気軽に足を運んでいただけたらと思います。

「KOGEI Art Gallery 銀座の金沢」2階ギャラリー

トークイベントで語られた「工芸」の現在地点

 2月2日には、1周年を記念した特別トークイベントも銀座で開催された。金沢にある国立工芸館館長・唐澤昌宏が進行役を務め、特別展の出品作家が一堂に会して言葉を交わした。それぞれの活動について紹介があったのち、唐澤や作家同士、会場からいくつか質問が投げかけられた。そのなかからとくに印象的であった回答についていくつか紹介したい。

1周年記念特別トークイベント「探求する工芸 Seek after KOGEI」の様子。左から、唐澤昌宏、田中里姫、水代達史、安達大悟、豊海健太、奈良祐希

──工芸領域をどのようにとらえて制作をしていますか。工芸と美術のどちらかに振り切っているのか、その両者を分離しようとしているのか、もしくは融合させたいのか。そのあたりの考えを教えてください。

奈良祐希(以下、奈良) 作家人生を賭けて考えていく大問題だとは思います。僕自身は金沢で生まれ育ち、工芸が身近な環境にあったのですが、近すぎたがゆえか、そこに新しい要素を組み込みたい気持ちも強くあります。いまは工芸という文脈にサイエンスを入れたいと思っており、作品を焼成する際には分単位で統計を取って膨大なデータを蓄積しています。

豊海健太 作品とは素材・技術・コンセプトの3つから成り立っています。工芸はとくに素材と技術に特化したものと考えられがちで、コンセプトが薄くなってしまってもよしとするのはいささか疑問が残ります。僕自身は素材にフォーカスしており、そこを突き詰めていくことで、自分なりのコンセプトを固めていけるのではないかと考えています。

田中里姫 生み出されたものが工芸かアートかを気にするつもりはありませんが、素材との向きあい方が工芸的かアート的かということは考えますし、違いがあると感じます。私にとっては、ガラスという素材がもっとも美しく魅力あるもの。ガラスとの関わり方が工芸的だと思うので、 自分はガラス工芸作家なんだろうと思います。 ただ、できたものが美しくさえあれば、アートとして評価されようが、工芸として評価されようが構いません。

──教職の立場にいる方もいらっしゃいますが、工芸を教え伝えていくことについてはどのように考え、取り組んでいらっしゃるのでしょう。

安達大悟(以下、安達) 東北芸術工科大学で教員の仕事をしていますが、非常に楽しく感じています。学生たちにはまず、本人が何をしたいのか、どう考えているのかをしっかりと聞いてから、やりたいことを実現するための方法を一緒に検討していきます。こちらから教えるだけではなく、学生にも自分のキャパシティを広げてもらっている感覚があります。

水代達史 金沢美術工芸大学で教員をしていますが、本当に日々刺激を受けています。実作者だからこそ教えることができることもあると思っているので、できるだけ制作を通して考えたことや具体的な作品へのアプローチ方法を伝えるように心がけています。

──制作にデジタルを取り入れる場合の、時間短縮以外でのメリットはありますか?

奈良 人間の脳で考えられないことを得られるのが、デジタルを活用するメリットだと思います。僕はデジタルを通して積極的に陶芸に異分野のものをブレンドしていこうと考えています。そうすることで、何か新しい状態が生まれないかと期待しています。

安達  僕の場合は色をたくさん使うので、色のバランスをデジタル上で視覚的に確認できるという点で重宝しています。あとは、例えば花のイメージを取り入れたいとき、デジタル上でデザインをつくりながら「これは染織技術的に可能だろうか」とじっくり検討することができるので、自身の表現の幅が広がっていく実感もあります。

 なお、先ほど紹介した「探求する工芸 Seek after KOGEI」は3月27日までの会期となっているほか、金沢から“工芸の新しさ”を世界へ発信する「第6回金沢・世界工芸トリエンナーレ / 2025金沢・世界工芸コンペティション」の作品募集も4月16日まで受付中だ。ぜひこの機会に参加してみてはいかがだろうか。