トークイベントで語られた「工芸」の現在地点
2月2日には、1周年を記念した特別トークイベントも銀座で開催された。金沢にある国立工芸館館長・唐澤昌宏が進行役を務め、特別展の出品作家が一堂に会して言葉を交わした。それぞれの活動について紹介があったのち、唐澤や作家同士、会場からいくつか質問が投げかけられた。そのなかからとくに印象的であった回答についていくつか紹介したい。
1周年記念特別トークイベント「探求する工芸 Seek after KOGEI」の様子。左から、唐澤昌宏、田中里姫、水代達史、安達大悟、豊海健太、奈良祐希──工芸領域をどのようにとらえて制作をしていますか。工芸と美術のどちらかに振り切っているのか、その両者を分離しようとしているのか、もしくは融合させたいのか。そのあたりの考えを教えてください。
奈良祐希(以下、奈良) 作家人生を賭けて考えていく大問題だとは思います。僕自身は金沢で生まれ育ち、工芸が身近な環境にあったのですが、近すぎたがゆえか、そこに新しい要素を組み込みたい気持ちも強くあります。いまは工芸という文脈にサイエンスを入れたいと思っており、作品を焼成する際には分単位で統計を取って膨大なデータを蓄積しています。
豊海健太 作品とは素材・技術・コンセプトの3つから成り立っています。工芸はとくに素材と技術に特化したものと考えられがちで、コンセプトが薄くなってしまってもよしとするのはいささか疑問が残ります。僕自身は素材にフォーカスしており、そこを突き詰めていくことで、自分なりのコンセプトを固めていけるのではないかと考えています。
田中里姫 生み出されたものが工芸かアートかを気にするつもりはありませんが、素材との向きあい方が工芸的かアート的かということは考えますし、違いがあると感じます。私にとっては、ガラスという素材がもっとも美しく魅力あるもの。ガラスとの関わり方が工芸的だと思うので、 自分はガラス工芸作家なんだろうと思います。 ただ、できたものが美しくさえあれば、アートとして評価されようが、工芸として評価されようが構いません。
──教職の立場にいる方もいらっしゃいますが、工芸を教え伝えていくことについてはどのように考え、取り組んでいらっしゃるのでしょう。
安達大悟(以下、安達) 東北芸術工科大学で教員の仕事をしていますが、非常に楽しく感じています。学生たちにはまず、本人が何をしたいのか、どう考えているのかをしっかりと聞いてから、やりたいことを実現するための方法を一緒に検討していきます。こちらから教えるだけではなく、学生にも自分のキャパシティを広げてもらっている感覚があります。
水代達史 金沢美術工芸大学で教員をしていますが、本当に日々刺激を受けています。実作者だからこそ教えることができることもあると思っているので、できるだけ制作を通して考えたことや具体的な作品へのアプローチ方法を伝えるように心がけています。
──制作にデジタルを取り入れる場合の、時間短縮以外でのメリットはありますか?
奈良 人間の脳で考えられないことを得られるのが、デジタルを活用するメリットだと思います。僕はデジタルを通して積極的に陶芸に異分野のものをブレンドしていこうと考えています。そうすることで、何か新しい状態が生まれないかと期待しています。
安達 僕の場合は色をたくさん使うので、色のバランスをデジタル上で視覚的に確認できるという点で重宝しています。あとは、例えば花のイメージを取り入れたいとき、デジタル上でデザインをつくりながら「これは染織技術的に可能だろうか」とじっくり検討することができるので、自身の表現の幅が広がっていく実感もあります。
* なお、先ほど紹介した「探求する工芸 Seek after KOGEI」は3月27日までの会期となっているほか、金沢から“工芸の新しさ”を世界へ発信する「第6回金沢・世界工芸トリエンナーレ / 2025金沢・世界工芸コンペティション」の作品募集も4月16日まで受付中だ。ぜひこの機会に参加してみてはいかがだろうか。