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2017.10.21

《快楽の園》の秘密に迫るドキュメンタリー。 映画『謎の天才画家 
ヒエロニムス・ボス』

2016年に没後500年を迎えた16世紀ネーデルラントを代表する画家、ヒエロニムス・ボス。彼の代表作《快楽の園》に多分野の専門家が対面する様子をとらえたドキュメンタリー映画『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』が12月に公開される。

文=熊澤弘(東京藝術大学 大学美術館准教授)

映画『謎の天才画家 
ヒエロニムス・ボス』より © Museo Nacional del Prado © López-Li Films
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《快楽の園》に魅了され、語る人々 ─「謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス」を巡って

 オランダ南部、ブラバント地方の都市スヘルトーヘンボス(デン・ボス)で活動していた画家一家出身のヒエロニムス・ボス。精緻な写実描写で知られる北方ルネサンス芸術のなかでも明らかに異彩を放つボス。その彼の代表作が、スペイン・プラド美術館所蔵の三連祭壇画《快楽の園》である。

 鑑賞者は祭壇画が開かれるとき、一糸まとわぬ無数の男女が多種多様な果物や動物とともに酒池肉林の宴を繰り広げる中央パネルに向き合う。左パネルにはアダムとエヴァの住む楽園、右パネルには終末的な情景が、おぞましくもユーモラスな怪物たちとともに描かれている。一般的な宗教画とは全く異なるこの祭壇画は、いったいどのように解釈されるべきなのか? 誰がこのパネルを欲したのか? なぜこれがボスの出身地を離れてスペインにあるのか?

映画『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』より © Museo Nacional del Prado © López-Li Films

 この魅惑的かつ難解な《快楽の園》の魅力に様々な視点から迫ったのが、本作『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』である。ボス没後500年を記念して2016年に開催された「ヒエロニムス・ボス展」を機に、プラド美術館の全面協力で制作されたこのドキュメンタリー映画では、2つの軸から物語が語られる。ひとつは、《快楽の園》、そしてボスの造形表現の源泉をたどるものだ。ボスの披瀝や歴代の所有者に注目する一次史料調査、X線分析等を含めた最新の美術史研究の成果が紹介されるとともに、ボスが生きた時代の宗教的価値観にも目を向け、《快楽の園》を、15世紀当時の視点から理解する視点が提示される。

映画『謎の天才画家 ヒエロニムス・ボス』より © Museo Nacional del Prado © López-Li Films

 もうひとつの軸は、この作品と対面した現在のクリエイターや文化人たちが語る「私にとってのボス像」である。美術史家や修復家、アーキビスト、歴史家や哲学者のみならず、小説家や歌手、音楽家、マンガ家、演出家、そして中国人アーティストが語るボス像は、極めて多様かつ刺激的だ。「見た人すべてがこの絵で物語をつくれる」「誰もがこの絵の謎を解こうと夢中になる」。著名な作家たちが「美術史上唯一無二」と語るこの作品を、見る人は語らずにはいられない。この映画で《快楽の園》を体験することができるだろう。

『美術手帖』2017年11月号「INFORMATION」より)