イメージにおける歴史的転換期をたどる。写真表現そのものを問うアーティスト・村上華子の個展が開催中
黎明期写真や活版印刷術など複製技術の歴史に関心を寄せ、写真やテキストによる作品を制作してきたアーティスト・村上華子の個展が、水戸芸術館現代美術ギャラリーで開催されている。会期は10月6日まで。
水戸芸術館が1992年より実施している企画展「クリテリオム」は、新作を中心に若手作家を紹介している。現在、その96回目として、写真の古典技法や活版印刷術など複製技術の起源に関心を寄せ、写真やテキストによる作品を手がける村上華子の個展が開催中だ。
村上は1984年生まれ。2007年に東京大学文学部を卒業後、11年に東京藝術大学映像研究科修士課程を修了した。その後ベルギー政府奨学生として渡欧し、ポーラ美術振興財団在外研修(パリ)、ル・フレノワ:フランス国立現代アートスタジオを経て、現在フランスを拠点に活動をしている。
15年には、gallery αMで個展「資本空間-スリー・ディメンショナル・ロジカル・ピクチャーの彼岸:村上華子」を開催。そのほか「パノラマ17」(ル・フレノワ:フランス国立現代アートスタジオ、2015)、「日常の実践」(国際芸術センター青森、2011)、「大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ」(2009)などのグループ展や芸術祭にも参加してきた。19年にはアルル国際写真フェスティバル新人賞にノミネートされ、7月より同フェスティバルでも個展を開催中だ(〜9月22日)。
本展は、村上が18年に行った、アメリカのゲッティ・リサーチ・インスティチュートとジョージ・イーストマン博物館での黎明期写真の調査にもとづく最近作が並ぶ。
例えば、「自然に基づく眺め」を写し取ることに情熱を燃やしたタルボットが手記に書き記した「イオタイプ」という技法を用いた作品《Rochester Plates》は、銀板を支持体とし、一点一点が光によって出現したイメージの異なる様相を見せる。
また《Nomenclature》は、技術のみならず概念として写真を探求するなかでニエプスが残した言葉から27種の単語を選り抜き鋳造・植字した作品だ。同作が提示する「rétina(網膜)」や「Physaute(自然それ自体)」といった言葉は、写真という名詞が定着したいまもなお、人々がイメージに求める性質と直感的に共鳴するようである。
そのほか、電子顕微鏡越しに感光の過程をとらえた短い動画《The Exposure》なども展示。同作は、電子顕微鏡で照射されることで感光性を持った銀板に化学反応が起こる様子が画面いっぱいに展開するという作品だ。写真表現そのものを問うような村上の試みに注目してほしい。