ギャラリー小柳で杉本博司の「火遊び」開催。新作を初公開
東京・銀座のギャラリー小柳で杉本博司の個展「杉本博司 火遊び Playing with Fire」が開催される。杉本が暗室の中で現像液や定着液に浸した筆を駆使して印画紙に書を揮った最新シリーズ「Brush Impression」から《火》を中心とした新作を初公開する。会期は9月5日〜10月27日。
東京・銀座のギャラリー小柳で杉本博司の個展「杉本博司 火遊び Playing with Fire」が開催される。会期は9月5日〜10月27日。
本展は、杉本が暗室の中で現像液や定着液に浸した筆を駆使して印画紙に書を揮った最新シリーズ「Brush Impression」から《火》を中心とした新作を初公開するもの。
同シリーズは、コロナ禍の後にニューヨークのスタジオに戻った杉本が使用期限を迎えていた大量の印画紙を見つけたことから始まったものだという。本来なら劣化した印画紙は使用できないものの、杉本は劣化をポジティブにとらえる古美術品のように、劣化した印画紙を用いて作品を制作。「書」の技法を暗室に持ち込み、現像液や定着液に筆を浸し、手探りで印画紙に筆を揮(ふる)ったという。
一定時間印画紙を光に晒すことで文字に淡い桃色や赤色を写し、燃えるような色とりどりの《火》が展示空間に配される。
子供の頃、火遊びをした。火はあぶないということはうすうす知っていた。火遊びを見つかると大人が騒ぐのでますます火遊びをした。周りにマッチ売りの少女がいて、悪ガキたちをそそのかし焚き付けた。
思春期の頃、火遊びをした。なにやらよくわからない説明のつかない衝動が突き上げてきて、なんでも自分に説明しようともがく私の理性は、木っ端微塵にくだけ散った。
学生の頃、火遊びをした。学生運動のさなか、火炎瓶は若者の魂を煽った。機動隊がせまる、必死で逃げた。こんなに早く走れるとは思ってもみなかった。
中年になって、火遊びをした。しかしすぐに後悔し別の火遊びを思いついた。深夜、和蝋燭に火をつける。風もないのに爆(は)ぜる。木製暗箱で蝋燭の一生を撮った。儚い一生だった。
晩年になって、火遊びをした。残された時は火を見るより明らかだ。そこで火を見つめてみた。炎の姿は火という文字に私のなかで結晶していった。印画紙に定着液で火を描いた。写真とは因果な商売だ。意外と真は写るものだと今更ながら気がついた。
──杉本博司(プレスリリースより)
なお杉本は、渋谷区立松濤美術館で個展「杉本博司 本歌取り 東下り」(9月16日〜11月12日)を開催予定であり、書における本歌取りとして上記を含む一連の作品を展観。またロンドンのヘイワード・ギャラリーでは、大回顧展「Hiroshi Sugimoto: Time Machine」(10月11日〜2024年1月7日)の開催も予定されている。