モネ、幻の大作《睡蓮、柳の反映》が初公開。前例ない修復の成果とは?
約60年ぶりに発見されたクロード・モネの大作《睡蓮、柳の反映》が、修復を経て国立西洋美術館「松方コレクション展」でお披露目された。前例がないという修復作業を経て公開されたその姿とは?
国立西洋美術館で開幕した「松方コレクション展」で、クロード・モネの幻の大作と言われる《睡蓮、柳の反映》が初公開された。
《睡蓮、柳の反映》は、モネが1916年に制作した油彩画。縦199.3×横424.4センチという巨大な油彩画で、パリのオランジュリー美術館にある全長90メートルの「睡蓮」の大装飾画の一部、《木々の繁栄》に関連づく習作のうちのひとつ。柳の木が逆さまに映り込んでいる睡蓮の池の水面を荒々しい筆致で描いたものだ。
本作が発見されたのは、2016年9月のこと。フランスの美術館関係者がルーヴル美術館内で発見し、調査を行い、国立西洋美術館に情報を照会。松方コレクションであることが判明し、17年11月に松方家から国立西洋美術館に寄贈された。
しかしながら作品の上半分が欠損しており、作品の全体像が確認できるのは欠損前に撮影された白黒写真のみという被害が大きい状態。国立西洋美術館ではこの修復作業を約1年間かけて実施し、今回のお披露目へと至った。担当した同館研究員・邊牟木(へむき)尚美は「これほど大きく、これほど破損した作品は珍しい。モネの大作の保存修復は前例がないことでした。修復期間は1年間だけ。本来であれば2~3年はかかります」と語る。
今回の修復では、欠損部分は補われることなくそのままにされている。これについて邊牟木はこう話す。「歴史的資料としての価値を重視して修復し、現状を維持しました。ですから欠失部分の補填は行っていません」。
そもそもの欠損理由として考えられているのは、この作品が上下逆さまに保管されていたからだという。「水や湿気で被害を受けたのではないかと考えられます。農家の家に疎開されていたので、ほかの作品が重なっていたのではないかとも推測されます」。
使用されている絵具は、同時代のモネの作品と同じであり、過去に修復の痕跡はない。同館では、今後は「ほかのモネ作品と比較研究し、技法や材料を解明していきたい」としている。
なお欠損部分は凸版印刷とともにデジタルで推定復元が行われた。復元にあたっては、北九州市立美術館や地中美術館、マルモッタン・モネ美術館などが収蔵している、描いた時期やモチーフが近い作品を中心にモネの作品の調査を実施。国立西洋美術館が実施した残存部分の科学調査によって絵具を特定し、同様の絵具で原寸大に画き、同時期のほかの作品と比較することで、モネが描く際の手順や特徴などを探ったという。
加えてヒントになったのは、フランス文部省・建築文化財メディアテークが所蔵する本作の白黒写真。その撮影原版にあたるガラス乾板から、高精細にスキャンされたデータを入手し、高精細スキャンデータと作品の現存部分を比較し、当時の撮影環境なども推定することで、白黒写真から得られる色彩情報の精度を高めたとしている。
今回推定復元されたものは、「松方コレクション展」エントランス前に展示されている。実物とデジタルの両方を見比べ、100年前の作品に思いを馳せたい。