松方コレクション形成の歴史をたどる。国立西洋美術館開館60周年の「松方コレクション展」に注目
国立西洋美術館が開館してから今年で60年。その節目として、同館の根幹をなす「松方コレクション」をタイトルに据えた展覧会が開幕した。
国立西洋美術館の根幹をなす美術品コレクションである 「松方コレクション」。その歴史にフォーカスした展覧会「松方コレクション展」が、同館開館60周年記念展として開幕した。
松方コレクションは、神戸の実業家・松方幸次郎(1865〜1950)が、1910年代半ばから1920年代半ばにかけて収集した西洋美術のコレクション。日本の美術、そして人々のために公共美術館をつくるという目的のために収集された作品群が、現在の国立西洋美術館開館へとつながっていった。
今回の展覧会に関して、同館主任研究員・陣岡めぐみは、「今回のような規模の松方コレクション展は初めて。ここ数年、松方コレクションの調査・研究を集中的に進めており、その成果を踏まえたものです。どのような環境のなかで(作品を)収集したのか、追体験できるような構成を考えました」と語る。
展覧会冒頭の「プロローグ」は、松方コレクションを代表する作品のひとつであるクロード・モネの《睡蓮》(1916)から始まる。松方がモネのアトリエを訪れ、モネ本人から直接作品を購入していたことは知られているが、本作もそのひとつだ。
この部屋にはフランク・プラグィンが描いた松方の肖像、そして松方が理想の美術館としていた「共楽美術館」の構想俯瞰図などが展示されており、プロローグでありながら本展を凝縮したような内容となっている。
そして展示は第1章「ロンドン1916-1918」から第2章「第一次世界大戦と松方コレクション」など、コレクションが形成された時間軸を追うように展開していく。本展はこの形成過程そのものが大きな見どころと言える。
松方コレクションは決して順風満帆に形成されてきたわけではない。関東大震災や昭和金融恐慌によって散逸しており、作品はロンドン(約900点)、パリ(約400点)、そして日本(約1000点以上)の3都市に分散。このうちパリから戦後返還された375点が、1959年の国立西洋美術館開館の契機となった。
この収集と散逸の歴史を、陣岡の言うように「追体験」するのが、本展の醍醐味だ。例えば第4章「ベネディットとロダン」では、2018年7月にフランスの建築文化財メディアテーク写真部門で発見されたガラス乾板に注目してほしい。これらは1926年以前、ロダン美術館の旧礼拝堂に保管されていた松方コレクションを撮影したもの。戦後日本へ返還されたものだけでなく散逸してしまった作品も含まれるなど、貴重な資料となっていおり、今回は365枚のうち16枚が並ぶ。
また散逸した作品そのものも見ることができる。第5章「パリ 1921-1922」に展示されたゴッホの名作《アルルの寝室》(1889)。これほもともと松方が購入したものだったが、その重要性から戦後の日仏政府間交渉のなかで、フランスに留め置かれることとなった作品だ。現在はオルセー美術館がその居場所となっている。
こうした、コレクション「流転」の歴史を物語る作品・資料の数々。加えてキャプションのそこかしこには、各作品が「いつ、どこで」購入されたかが記されており、その来歴を知ることができるのも本展の特徴だ。これらも見落とさずにチェックしておきたい。
なおエピローグでは、60年にわたって行方不明だったモネの大作《睡蓮、柳の反映》(1916)が修復後、初めて公開されている。旧松方コレクションで、2016年に松方家から国立西洋美術館に寄贈されたこの作品。展覧会の最後を飾るのに、これほどふさわしい作品はないだろう。