「アートフェア東京2021」の売上は過去最高に。ディレクターに聞く国内フェアの現在とこれから
2年ぶりの開催となった「アートフェア東京2021」(3月18日〜21日)同フェアが発表した入場者数や売上を、マネージング・ディレクターの北島輝一による解説や分析を踏まえつつ振り返る。
3月18日〜21日に東京国際フォーラムで開催された「アートフェア東京2021」。昨年は新型コロナウイルスの感染拡大により中止となったため、今年は2年ぶりの開催となった。同フェアが発表した入場者数や売上を、マネージング・ディレクターの北島輝一による解説や分析を踏まえつつ振り返りたい。
まず、今回の来場者は4万963人、売上は30億8000万円(出展者任意アンケートより推計)を記録した。前回2019年の来場者6万717人と比べると、新型コロナウイルス対策のために来場人数を絞ったこともあり、4割ほど減少している。しかしながら売上は過去最高だった2019年の29億7000万円を上回る、30億8000万円を記録。来場者数が減ったにも関わらず、売上が更新された。
北島によれば、2019年の出展ギャラリーは160軒で、40軒が1000万以上を売り上げていた。今年の出展数は140軒と前回に比べて少なかったが、65軒が1000万円以上の売上を記録するなど、極めて好調な結果になったという。
国内アートマーケットの盛り上がりを象徴するような数字だが、アートフェア東京は現代美術と、古美術や工芸といったジャンルのギャラリーが混在している。具体的にはどのようなジャンルの作品の販売が伸びたのか。北島は次のように分析する。
「現代美術に関しては、今回、高額な物故作家のセカンダリーがほとんど出展されていないにも関わらず売上が良かったので、プライマリーの若手・中堅作家が満べんなく売れたということではないでしょうか。現代美術現代美術のギャラリーでは5000万円以上売り上げたギャラリーが4、5軒はあったので勢いを感じました。例年とラインナップがあまり変わらないながらも、昨年は1000万円程度の売り上げだったギャラリーが5000万円以上売り上げた例もあります。いっぽうの古美術も、中国美術や鍋島焼の陶器、葛飾北斎の浮世絵などがしっかりと売り上げをつくったという印象です」。
また、今回は新型コロナウイルスによって、フェアを訪れる外国人がほぼいないという状況だったにも関わらず好調な結果だった。国内のコレクターが増えていると考えられるのだろうか。「実感ベースですが、これまで中心となっていた50代以上のコレクターではなく、30代後半から40代ほどの、これまで見たことがない新しいコレクターが作品を買っていくという話は出展ギャラリーからよく聞きます」。
今回のアートフェアは、新型コロナウイルスの対策として、オンラインビューイングを導入したことも特徴と言える。アートフェアをオンラインで見られることは購買へとつながったのだろうか。
「とくに古美術系のギャラリーはオンラインビューイングに消極的だったが、予想以上に顧客が見ていることがわかり、オンラインで表示する作品のキャプションを追加したということもありました。オンラインビューイングがフェアでの直接の購買につながるかはわかりませんが、古美術でもこうした状況ですから、現代美術もふくめて活用されている方の総数はかなり多いと思います。また今回は、フェアを見てからギャラリーを訪れるというアフターでの購買も多く、これもオンラインが関係しているかもしれません」。
コロナ禍を経たアートフェアの今後を占うひとつの指標ともなる今回のアートフェア東京。今後のアートフェアのあり方について、北島は次のように予測する。
「これはあくまで私の仮説ですが、グローバルなアートフェアを牽引するアートフェアは、コロナ禍では弱いのかもしれないですね。開催地となるバーゼルや香港という土地のアートシーンに基づかないアートフェアというのは、不自然だった可能性があります。例えば、アートフェア東京でいえば、作品の多くが日本人アーティストによるものですし、結果的に日本のコレクターが好むものが集まってきます。このように、作品とコレクターから構成されるアートシーンの中に、アートマーケットが成立すると考えられるわけです。そして、市場原理は少数の強い勝者を選び出し、敗者を退場させるためのものですが、アートに限らず日本の様々なマーケットはその市場原理の度合いがそれほど強くありません。アートバーゼルはグローバルマーケットでのひと握りの勝者を決めるチャレンジかもしれませんが、多様性を考えたときにそれには限界があり、特にコロナ禍ではグローバルマーケットの前提が成立しないので、具体的なアートシーンに立ち戻る必要が生じていると思います。日本全体のアートシーンを考えるとまだフェアが足りないように思います。アートシーンを、東京だけでなく、京都で行われている『artKYOTO』や今年新たに開催される『art stage OSAKA』などのフェアを通じ、他の地域でも醸成していくことで日本全体のアートマーケットを活性化していきたいと思います」。