2024.9.5

「Kiaf SEOUL」開幕レポート。改めて見えた韓国のアーティスト層の厚さ

韓国を代表するアートフェア「韓国国際アートフェア」(Korea International Art Fair SEOUL、通称「Kiaf SEOUL」)が、今年も開幕した。会期は9月8日まで。会場の様子をレポートする。

文・写真=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

クジェギャラリーの展示風景より、金允信(キム・ユンシン)
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 韓国を代表するアートフェア「韓国国際アートフェア」(Korea International Art Fair SEOUL、通称「Kiaf SEOUL」)が、今年も開幕した。会期は9月8日まで。

Kiafの会場

 会場となっているのはソウルの大型展示場・COEX。今年は世界から206のギャラリーが集まり、バンコク、北京、ロンドン、マドリード、ニューヨーク、ローマ、ソウル、シドニー、テヘラン、東京などの都市から36のギャラリーが初めてフェアに参加した。日本からもアートフロントギャラリー、Art Collection Nakano、biscuit gallery、鎌倉画廊、みぞえ画廊、Gallery Q、√K Contemporary、SH Gallery、SNOW Contemporary、STANDING PINE、TEZUKAYAMA GALLERY、TomuraLee、GALLERY KOGURE、ギャラリー椿、MEDEL GALLERY SHU、ホワイトストーンギャラリー、ユミコチバアソシエイツ、YOD TOKYO & Editionsの18ギャラリーが参加している。

TEZUKAYAMA GALLERYの展示風景より、長谷川学の作品

  韓国国内からの参加ギャラリーは130超。今年の会場は昨年と同様のCOEXホールA・Bに加え、2階のザ・プラッツエリアにも拡大し、特別展示「Kiaf on SITE」も開催されている。会場の様子をレポートしたい。

 まずは韓国の大手ギャラリーのプレゼンテーションを見ていきたい。ソウルのギャラリー街として知られるサガンドン(司諫洞)で50年以上にわたり韓国の美術を牽引してきたギャラリー・ヒュンダイ。昨年はライアン・ガンダーの大規模なプレゼンテーションで話題を集めたが、今年は一転してイ・ガンソ(李康昭)、チョン・サンファ(鄭相和)、イ・スンテク(李升澤)、ジョン・パイといった単色画をはじめとする1930〜40年代生まれの大御所作家を展示した。

ギャラリー・ヒュンダイの展示風景より、チョン・サンファ(鄭相和)の作品

 韓国美術のアイデンティティに立ち返るような動きは、同じく80年代よりソウルで活動をしてきた老舗、PYO GALLERYも同様だった。パク・ソボ(朴栖甫)とリ・ウファン(李禹煥)という単色画の確立に貢献した2作家それぞれのビューイングルームを構築し、両作家の個性を際立たせていた。

PYO GALLERYの展示風景より、パク・ソボ(朴栖甫)の作品
PYO GALLERYの展示風景より、リ・ウファン(李禹煥)

 また、昨年はウーゴ・ロンディノーネによる個展形式のプレゼンテーションを展開した老舗のクジェギャラリーは、韓国の女性彫刻家の草分けである金允信(キム・ユンシン)の立体と平面作品を展示した。

クジェギャラリーの展示風景より、金允信(キム・ユンシン)

 このように韓国国内の大手ギャラリーが自国の大御所を積極的に紹介する傾向は、やはり「Frieze Seoul」との差異化を目指したものといえるだろう。韓国の重要作家を海外へプレゼンテーションするという、Kiaf SEOULの原点に立ち戻ったと評価できる。

 韓国の若手から中堅作家の紹介に積極的なのもKiaf SEOULの特徴だ。「Kiaf Highlights」と題し、「新しい発見と新鮮な出会い」 をテーマに10人の新進および中堅アーティストにハイライトを当てている。選ばれた作家の所属ギャラリーのネームプレートの下には「HIGHLIGHTS」のタグがつけられており、会場を回るときに注目すべきポイントとなっている。以下にとくに注目の3名を紹介したい。

 This Weekend Roomのチョイ・ジウォンは、質感をあますことなく表現した磁器人形をモチーフとする作家。人形を物語を感じられる背景と巧みな構図で組み合わせることで、絵画内に複雑な文脈を発生させている。

This Weekend Roomの展示風景より、チョイ・ジウォンの作品

 STEVE TURNERのペイジ・ジヨン・ムーンはアメリカを中心に活動するアーティスト。自身が記憶に留めておきたい瞬間を、乾いた明るい色彩で生き生きと描く。対象の細部にいたる描写に、作家自身の物語が仮託されている。

STEVE TURNERの展示風景より、ペイジ・ジヨン・ムーンの作品

 ARARIO GALLERYのカン・チョルギュの風景画は、深い内省によりかたちづくられた、自己の分身ともいえる景色を描いているのだという。フルタイムで働きながら、画面と向き合ってきたというこの作家の構成力は目を見張るものがある。

ARARIO GALLERYの展示風景より、カン・チョルギュの作品

 日本のギャラリーからも、韓国のアーティストを積極的に取り上げようという動きが目立った。SNOW Contemporaryは韓国の俳優、ハ・ジウォンの絵画シリーズを展示。Gallery Qは植物画を描いてきたキム・ソウルの、アクリルを重ねてレイヤー化した作品を展示。衆目を集めていた。

SNOW Contemporaryの展示風景より、ハ・ジウォンの作品
Gallery Qの展示風景より、キム・ソウルの作品

 また、昨年に続き出店したアートフロントギャラリーでは、今年も水戸部七絵が多くの作品を展示。アメリカのトランプ前大統領の肖像画シリーズは、銃撃事件を受けて負傷した耳が描き加えられたもの。政治動向に敏感で自国の大統領への監視の目を光らせる韓国の人々はこうした米大統領選挙の動向をどのようにとらえるのか、という問いかけも込められているという。

アートフロントギャラリーの展示風景より、水戸部七絵の作品

 今回、新たに追加された2階の展示スペース「ザ・プラッツエリア」では、広めの展示スペースを活かして各ギャラリーがそれぞれ3作家を紹介するというプレゼンテーションが行われており、日本のギャラリーとしてはbiscuit galleryとMEDEL GALLERY SHUがここで展示していた。

biscuit galleryの展示風景より

 この2階スペースではソウルのアーバン・アート・ラボの所長、スンア・リーがキュレーションを担当する「Kiaf on SITE」のプログラムのひとつ、未来のハイパーコネクテッド社会を提案する「The WONDER」 がVR空間を紹介。こちらも韓国の新しいアートの動向を紹介する試みだ。

「The WONDER」 展示風景より

 昨年とは傾向を違え、再び大御所から若手まで、幅広く韓国の作家に焦点を当てた展覧会ともいえる今年のKiaf SEOUL。韓国美術の現在地を知るという点では、Frieze Seoulとはまた異なる魅力を持つアートフェアになっているといっていいだろう。