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2024.11.1

国際的なアートカレンダーにおいて確固たる地位を確立。第4回の「Art Collaboration Kyoto」が開幕

今年で第4回の「Art Collaboration Kyoto」(ACK)が国立京都国際会館で開幕した。それとともに、大小数十の展覧会が市内の美術館やギャラリーで同時に開催中の京都は、かつてないほどの盛り上がりを見せている。その様子をレポートする。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術美術」編集部)

Art Collaboration Kyoto 2024の会場風景より
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 今年の秋、京都のアートシーンはかつてないほどの盛り上がりを見せている。第4回の「Art Collaboration Kyoto」(ACK)の開幕とともに、京都市内では大小数十の展覧会が同時に開催されている

 市内の主要な美術館やギャラリーの展覧会に加え、両足院では加藤泉とボスコ・ソディによる「黙: Speaking in Silence ‒Bosco Sodi & Izumi Kato」が開催され、両者の作品のあいだで静かな対話が展開されている。またサンパウロやブリュッセル、パリ、ニューヨークに拠点を持つMendes Wood DMは、大徳寺黄梅院でブラジル出身のアーティスト、ルーカス・アルーダの個展「At Twilight」を開催中。一般公開の少ない黄梅院における初の絵画展だ。ロサンゼルスのギャラリー・ノナカ・ヒルは、祇園に新たなスペースをオープンし、こけら落としとして今井麗の個展「ARCADIA」を見せる。

「黙: Speaking in Silence ‒Bosco Sodi & Izumi Kato」の展示風景より
ルーカス・アルーダ「At Twilight」の展示風景より

 さらに、2019年から開催されてきたアートフェア「artKYOTO」は、今年初めてACKと同時期に開催されており、今年は東本願寺の飛地境内である名勝・渉成園が新たな舞台になった。Art Rhizome KYOTOが主催する展覧会「逆旅京都」も市内10ヶ所の公共空間で開催されており、京都にゆかりのある14名の若手アーティストの作品を展示。まさに町全体を会場にした小さなアートフェアと言える規模だ。

「artKYOTO 2024」の会場風景より

 今年のACKには、昨年の64ギャラリーを上回る69のギャラリーが参加。ペロタンやGalerie Tenko Presents(東京)、昨年京都に設立されたOSCAAR MOULIGNE、そして一部の海外のゲストギャラリーは今年初参加を果たした。

 昨年、ACKがアートウィーク東京と隣り合わせの会期で開催されたことにより、多くの海外コレクターやアート関係者がその週末に集中して京都と東京を訪れるようになった。両イベントは今年も同様の会期で開催され、海外のアート界ではこれがひとつの共通認識となりつつあり、国際的なアートカレンダーにおいて10月末から11月初頭の見逃せないイベントとして確固たる地位を築いている。

 そのため、今年のACK会場には海外からの来場者が増えた印象があった。また、今年は会場デザインも刷新。昨年は、いくつかの「広場」のようなスペースにギャラリーが取り囲み、中央エリアに向かって開くというデザインであったが、今年のギャラリーブースは異なる入口が設けられている。これにより、フェアを探索する楽しみが一層増している。

Art Collaboration Kyoto 2024の会場風景より

展示作品のハイライト

 会場入口にブースを構えるKAYOKOYUKI(東京)と前述のMendes Wood DMは、土や自然に関連する作品を一連に展示。KAYOKOYUKIでは、今村洋平がシルクスクリーン技法で数百回もインクを重ねることで独特の質感を生み出す作品や、大田黒衣美が卵の殻や写真を用い、自然や動物をテーマにした作品を展示している。

KAYOKOYUKI(東京)とMendes Wood DM(サンパウロ)のブース

 昨年、タカ・イシイギャラリーと共同出展したMendes Wood DMは、今年はソランジュ・ペソア、ポーラ・シエブラ、ミゲル・バクンの3名の作品を紹介。ギャラリー共同創設者のひとり、ペドロ・メンデスは、昨年と比較して今年はさらに多くの観客が異なる地域から集まっていると感じたと語り、「京都では目を閉じて外の世界の困難から少し離れ、自分のなかに深く浸ることができる」と述べた。

TARO NASU(東京)とMatthew Marks Gallery(ニューヨーク)

 会場の中央に位置するTARO NASUとMatthew Marks Gallery(ニューヨーク)の共同ブースでは、スターテヴァントのインスタレーション《Gonzalez-Torres Untitled (America)》(2004)が展示され、来場者の多くがフェリックス・ゴンザレス=トレスの作品かと尋ねる様子が見られた。スターテヴァントは、自身と同時代のアーティスト作品を「再演」することで知られており、同作は60万ユーロの価格で販売されている。また、同ブースにはエルズワース・ケリーの絵画作品も展示されており、価格は200万ドル以上。今年のACKにおいてもっとも高価な作品とされる。

 今年2度目のACK参加となるノナカ・ヒルは、無人島プロダクション(東京)とCrèvecœur(パリ)との共同ブースで、出津京子やケンジ・シオカワなどの作品を展示している。ギャラリー創設者のひとり、ロドニー・ノナカ・ヒルは、「前回の参加で京都が国内で様々な活動を促進するための拠点となり得ることを実感した。ここでの展示を通じて、日本におけるギャラリープログラムがより充実し、歴史と現代のアートをつなぐ一歩になれば」との期待を寄せている。

無人島プロダクション(東京)、ノナカ・ヒル(ロサンゼルス)、Crèvecœur(パリ)

 SCAI THE BATHHOUSEとTanya Bonakdar Gallery(ニューヨーク)は、それぞれヘ・シャンユとアナリア・サバンの「都市構造」をテーマにした作品を展示。糸や銅を編み込んだ複雑な技術を用いたサバンの作品はMoMAやハーシュホーン博物館などの名だたる美術館にも収蔵されている。今年ベルリンから北京に拠点を移したヘは、中国の都市構造や資本主義の浸透をテーマに、レッドブルやタバコのモチーフを通じて社会に問いかける作品を発表。ACK期間中、ヘは京都のARTROと曼殊院でも個展を開催している。

初日のセールス

 フェア初日には、小山登美夫ギャラリー中園孔二の作品3点を85万~215万円で販売。香港のWKM GALLERYはサム・フリードマンや篠崎恵美の作品を展示し、篠崎の彫刻数点が初日に2000~1万香港ドル(約4万〜20万円)で販売された。

小山登美夫ギャラリー(東京)とEACH MODERN(台北)のブース
rin art association(高崎)とWKM GALLERY(香港)のブース

 MISAKO & ROSENは、i8 gallery(レイキャビク)と共同で八重樫ゆいの個展を展開し、初日に6000~1万1000ドル(約92万〜168万円)で八重樫の作品3点をソールド。4649では、武田龍の絵画が6万5000円と13万8000円で、安部悠介の絵画が1000ドル(約15万円)、佐伯オリムの絵画が1800ドル(約28万円)で販売された。

MISAKO & ROSEN(東京)とi8 gallery(レイキャビク)
4649(東京)とLomex(ニューヨーク)のブース

 ACKは2022年から保税展示場許可を得ており、今年もこれを取得したため、海外の参展ギャラリーにとって税務面での負担が軽減された。メンデスは、「このフェアの魅力はその規模と親密さにあり、拡大する必要はない」と語る。

 西洋のアートフェアに比べて、「ギャラリストやアーティストと直接話せる機会があり、ただせわしなく商談を行う場というよりも、皆がリラックスしてアートを楽しんでいる雰囲気が漂っている」(メンデス)。

 ACKはローンチ当初、フリーズ・ソウルのように開催前から国際的な注目を集める存在ではなかったかもしれない。しかし、過去数回の開催を経て、ACKはアジアや国際的にも高い評価を積み重ね、京都は新たなアートの目的地として、繰り返し訪れる人々を魅了している。同フェアと京都のアートシーンは、これからより一層注目を集めることになるはずだ。