ジェンダーを超越し、歌い踊る。フランソワ・シェニョー&ニノ・レネによる『不確かなロマンス−もう一人のオーランドー 』が日本初演へ
フランスでいまもっとも注目を集めるダンサー・振付家のひとりであるフランソワ・シェニョーと、造形作家・映像作家・音楽家であるニノ・レネ。このジャンルを超えた才能あふれるふたりのアーティストが共同演出する 『不確かなロマンス−もう一人のオーランドー』が、彩の国さいたま芸術劇場(12月19日)、ロームシアター京都(12月21日)、北九州芸術劇場(12月23日)で日本初演される。
2つの類まれな才能によって生み出された作品が、日本で初演される。フランソワ・シェニョーとニノ・レネによる『不確かなロマンス−もう一人のオーランドー』だ。
フランソワ・シェニョーは、フランスでいまもっとも大きな注目を集めるアーティストのひとりであり、ダンサー・歌手・振付家、そして歴史研究家でもある。2003年にパリ国立高等音楽・舞踊学校を卒業後、数多くの振付家やダンサーとコラボレーションを展開し、ダンスと歌が交差する様々なアイデアを具現化した作品を創作。日本では、セシリア・ベンゴレアと共に『TWERK』『DUB LOVE』などを発表しているので、その超人的な身体能力やクラブカルチャーとクラシックバレエを同時に取り入れた示唆に富む創作に強烈な印象を持った人も多いだろう。このふたりのコラボレーションも世界各国で上演し、高い評価を得てきた。
いっぽうのニノ・レネも、造形作家・映像作家・音楽家として活躍する注目の存在だ。ボルドー国立高等美術学校で映像と写真を専攻し、09年に卒業。同時に南米の伝統曲を中心としたギターの演奏を学び、13年の映像作品《En présence(piedad silenciosa)》をはじめ、映像や音楽など異なるメディアを横断しながら、歴史的および社会学的要素、伝統、キャバレー、オペラなどを通じて展開する作品を発表している。18年には、グラン・パレ(パリ)の委嘱でマスネのオペラ『ウェルテル』に着想を得た短編映像作品《Mourn, O Nature!》をシェニョーとのコラボレーションで発表した。
このふたりが4年におよぶ研究の末、共同演出するのが『不確かなロマンス―もう一人のオーランドー』だ。17年にラ・バティ・フェスティバル(ジュネーヴ) で初演された本作は、その後アヴィニョン国際演劇祭やフランス国立シャイヨー劇場で完売を記録し、一躍シェニョーの名を世界に広めた傑作。タイトルにある「ロマンス」とは、中世のスペインで盛んだった物語詩で、吟遊詩人によって歌い継がれたものだ。
舞台は三場で構成され、シェニョーがスペインを舞台に不確かなジェンダーの3人を演じながら、性を超越し、歌い踊る。登場するのは、男装の少女戦士、フェデリコ・ガルシア・ロルカの詩でも知られる両性具有の聖ミカエル(サン・ミゲル)、そして魅惑的で狂気をはらんだアンダルシアのジプシー、ラ・タララだ。
それぞれのキャラクターは、ある時は男性的な低い声、ある時はカストラートを思わせる女性的な高い声で歌い、バロックダンスやフラメンコ、民族舞踊などを混合しながら竹馬やハイヒールなど不安定な状態に身を置き、舞う。その変容の様はサブタイトルにもあるように、時代や性別を超えて生きる美貌の青年貴族が主人公のヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』を彷彿とさせると言える。
また本作品では、その音楽にも注目したい。音楽は、400年におよぶスペイン音楽をアレンジし、4人のスペシャリストが舞台上で生演奏を繰り広げる。テオルボ/バロックギター、バンドネオン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、パーカッション。異なる時代の音色が出会うことで、シェニョーの歌・ダンスと共に観客を未知の世界へと誘う。
現代にオペラ=バレエを蘇らせたとも言える本作。ダンス、演劇、美術、音楽を含んだ総合芸術の世界に没入してほしい。