シンプルで強靭で奥深い、佇まいはまるで「弥勒菩薩」のよう。FPM・田中知之が語るココ・カピタンの魅力とは
株式会社パルコが2014年よりスタートさせたコーポレートメッセージ「SPECIAL IN YOU.」。Vol.21にはスペイン出身のアーティスト、ココ・カピタンが登場し、そのなかで「『才能』は自分に与えられた『特別なギフト』」であり、「誰もが持っているものだ」と語る。本企画にあわせて、ココと交流・共演経験のある音楽プロデューサー、DJの田中知之(Fantastic Plastic Machine)にココの人物像やその魅力について話を聞いた。
出会い、そして共演を経て。FPM・田中知之が語るアーティスト ココ・カピタン
──ココ・カピタンとの出会いはいつ、どのようなものでしたか?
田中知之(以下、田中) 2022年に彼女の個展「NAÏVY」を渋谷のPARCO MUSEUM TOKYOへ観に行ったのが最初です。透明感にあふれる写真が並ぶ、いい展示でした。シャープな雰囲気の写真と、撮り方にもモチーフにも緩さのある写真が混在しながら、無理なく共存していて深みのある作品になっていると感じました。中性的な視点からセクシュアリティをスマートに表現しているのもすばらしい。
際立った個性を楽しませていただいたあと、会場にご本人がいらっしゃるというので、ご挨拶しようとお声がけすると、あちらから「Fantastic Plastic Machine ですよね? あなたの音楽、以前から聴いてます」と言ってくださったんです。うれしかったですね。アーティスティックでありながら、人として大変とっつきやすい彼女とは、すぐに意気投合しました。普段そんなことはしないのに一緒に写真を撮って、また連絡を取り合いましょうと言いながら会場を去りました。
──それから関係が深まっていったのですね。
田中 頻繁に連絡を取るわけではないのですが交流は続いて、その年のうちに「共演」まで叶ってしまいました。
僕はオリジナルアルバムを何年もかけてつくっているところで、コラボレーターがいたらいいなと考えていました。それでふと、「一緒に何かやりましょう」と言ってみたところ、彼女もすぐ乗り気になってくれたんです。ならばと2022年11月、京都市京セラ美術館で開かれた「Art Collaboration Kyoto」オープニングレセプションのLIVEパフォーマンスで、コラボレーションをすることになりました。
このコラボレーションは、まず彼女に僕の東京のスタジオまでやってきてもらい、今回のライブ用に書いてもらった詩を彼女自身に読んでもらい録音することからスタートしました。ライブ当日は、それを素材に楽曲として仕上げたものを披露したり、彼女の読んだ詩をリアルタイムでサンプリングし、モジュラーシンセサイザーに取り込み、言葉も意味も一旦バラバラにしたものを、インタラクティブにダンスミュージックとして再構築したりしました。
当初の予定では、まずココが即興で言葉を紡ぐパフォーマンスをして、その後に僕がDJをして、パーティーが終わることになっていました。ところが、彼女は僕がDJをするときになっても壇上を降りず、ずっと言葉を紙に書き続けてくれたんです。いったん創造の世界にのめり込むと、とことん深く潜ってしばらく出てこないタイプなのでしょうね。
言葉のパフォーマンス自体もすごくよかった。彼女が白い紙を埋めていき、その手元がリアルタイムで大きく映し出されていくさまは、独自のカリグラフィの体系がその場で生成されていくかのようで、デザイン的に見応えがありました。同時に、そこに書かれた文章の内容は、詩文として読んでもグッとくるものでした。
シンプルで強い言葉がスルスルと生み出されていくたび、紙面から音が鳴り響くみたいにも感じました。彼女はどんな表現手段をとっても、並々ならぬ才能を発揮するんですね。
──これだけ共鳴し合う田中さんとココ・カピタンですから、共通点も多々あるのではないでしょうか。
田中 何かひとつの環境やお題があると、それに対して嬉々として答えを出そうとするところは似ているかもしれません。与えられたもののなかから視点を見つけ、自分なりの表現にしていく姿勢と言いますか。
例えば、彼女は日本に来たときには日本的な感性へと自分自身をチューニングしているところがあるように思います。どこにいても我流を貫き通すというより、その場に自分を馴染ませていく感じです。
京都でのパフォーマンスの際にも、彼女は音に対するアイデアをいろいろ出してくれました。日本の街角でよく耳にする学校のチャイムの音、あれは海外では聞けない日本らしい音だから取り入れては、とか。あとセミの鳴き声も、これは新鮮だから入れましょうと提案してくださったり。
自分の周りでおもしろいものを見つける感性、これもひとつの特殊な能力ですよね。そうして見つけたものを、どんどん取り入れていく柔軟さもまた彼女は持っています。だから商業的なコラボレーションやメディアミックスも、自分のアートフォームを崩さぬまま、縦横無尽にできてしまうのでしょう。
──京都でのパフォーマンスに続いて、おふたりがコラボレーションする計画はあるのでしょうか?
田中 話し合ってはいるんですよ。どういうタイミングでどれほどのことができるかはまだわからないのですが、例えば彼女が拠点のひとつとしているスペイン・マヨルカの「土地の音」なんかを生かした作品ができないだろうかと、模索しているところです。楽しみにお待ちいただけたらと思います。
「まるで弥勒菩薩のよう」。ココ・カピタンの魅力とそのスペシャリティ
──今回、パルコのコーポレートメッセージ「SPECIAL IN YOU. 君も、特別。」ムービーに、ココ・カピタンが登場しています。彼女のスペシャリティの源泉はどこにあると思われますか。
田中 高いレベルの表現やパフォーマンスをしているときも含めて、いつも素直に感じたままにふるまい、周囲にポジティブな影響を与えるパーソナリティが魅力の素なのだろうとは感じます。
普段の彼女は、大変気さくでフラットです。初めて一緒にパフォーマンスをしようと決めたとき、まずは食事しながら打ち合わせをするということになりました。ちゃんとしたレストランを予約しなければと、好みを人づてに訊いてみると、
「だったらホッピーが飲みたい」
と本人からの返事。ずいぶん庶民的なオーダーで、こちらをリラックスさせてくれました(笑)。
実際に会っていても、人を緊張させないし、優しさを絶やさない。どこか性別を超越したスーパー・キャラクターですよね。その感じは何かに似ているなと考えていたんですが、先日ふと気づきました。彼女はまるで弥勒菩薩のようなんです。
京都・広隆寺に国宝の弥勒菩薩像があります。少し首を傾げながら、どうしたら人々を救済できるかと思いを馳せている、あの慈悲深さに通ずるものがココ・カピタンにはあります。
感性も独特で、これはパフォーマンスに参加するため京都に滞在していたときのことですが、彼女が何気なく言いました。
「この前見かけた蜘蛛に、名前をつけた。『ちひろ』という名前にした」と。
そして、「ちひろについての歌をつくろうかと思っている」とも。いったいどこからこんなに自在な発想が湧いてくるのかと驚いてしまいます。
──ムービーをご覧になってどう思われましたか?
田中 短い映像ながら彼女の人となりがよく出ていますよね。そのなかで彼女は、「誰にでも才能はある」と強調しています。メッセージとしてはごくシンプルなものです。けれど彼女がそれを発すると、たいへんな説得力が生じるのは不思議です。
小柄で穏やかな彼女なのに、アウトプットはいつもパワフル。シンプルさと強靭さを併せ持つ稀有な才能であることが、このムービーによく表れていると思います。