田名網敬一を深く知るために。『田名網敬一 記憶の冒険』が刊行
国立新美術館での大規模個展「田名網敬一 記憶の冒険」公式図録である『田名網敬一 記憶の冒険』が、青幻舎より9月上旬に刊行された。
国立新美術館での大規模個展「田名網敬一 記憶の冒険」(8月7日〜11月11日)が開催中のなか、惜しまれながら88歳でこの世を去った田名網敬一。同展の公式図録であり、決定版作品集でもある『田名網敬一 記憶の冒険』が、9月上旬に刊行された。
田名網は1936年東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。在学中にデザイナーとしてデビューし、75年には日本版月刊『PLAYBOY』の初代アートディレクターを務めるなど、早くから雑誌や広告を主な舞台に、日本のアンダーグラウンドなアートシーンを牽引してきた。また60年代からはデザイナーとして培った方法論・技術を駆使し、絵画、コラージュ、立体作品、アニメーション、実験映像、インスタレーションなどを制作。アートディレクター、グラフィックデザイナー、映像作家など、そのジャンルを横断した類まれな創作活動により、他の追随を許さない地位を築いてきた。2000年以降もファッションブランドとのコラボや700点以上におよぶピカソの模写など、縦横無尽に精力的な活動を見せ、亡くなるまでそのエネルギーは湧き出し続けていた。
本書は、いま世界的評価が高まる田名網の60年におよぶ創作の軌跡を、初期から最新作までの図版約600点を軸に、豊富な資料と多角的な論考によるアプローチで総括する決定版作品集。田名網自らがデザイナーを選び、レイアウトはじめカバーをチェックし、色校正を繰り返したという、貴重な1冊だ。
冒頭には、田名網によるエッセイ「俗と聖の境界にある橋」が収められており、展覧会でもプロローグを飾る最新作《百橋図》について、記憶が作品へと昇華する道筋が語られている。また、ジャンルを越境する田名網の創作活動について、幼少期の戦時下から高度成長期、そして今日まで、時代背景とともに検証する5本の論考を掲載。
加えて、2万字におよぶ田名網のロングインタビュー、現実と夢を行き来しているかのようなエピソード満載のキーワード集、思索の秘密に迫る「スタジオに堆積する資料の調査録」などのほか、「略年譜」「主要展覧会歴」「パブリック・コレクション」「主要文献」も。田名網敬一という巨人を深く知るためにこれ以上ない作品集だと言えるだろう。
All photo ©Keiichi Tanaami Courtesy of NANZUKA