近代工芸の巨匠・香取秀真。松本市美術館で見るその哲学
近代日本の工芸界において大きな足跡を残した香取秀真(かとり・ほつま)。その生誕150年、没後70年という節目の年に、大規模な展覧会が松本市美術館で開催されている。会期は12月1日まで。
金工の巨匠、香取秀真の珠玉の作品が一堂に集結
近代工芸史に大きな足跡を残した鋳金家・香取秀真(かとり・ほつま、1874~1954)。その生誕150年、没後70年を記念した大規模な展覧会が松本市美術館で行われている。会期は12月1日まで。
香取秀真(本名・秀治郎)は1874年、千葉県に生まれ、92年に東京美術学校(現在の東京藝術大学)に入学。鋳金を専門とし、伝統的な技法を身につけつつも、時代の要請に応じた実用性を重視した作品を数多く手がけた。卒業後は多数の展覧会で受賞を重ね、鋳金家としての名声を確立する。
本展は、秀真の代表作や松本市との縁を示す作品が一堂に集結し、その多彩な活動と芸術の幅広さを紹介するもの。担当学芸員は稲村純子(松本市美術館学芸員)。
展覧会は、「はじめに」「多彩な活動」「秀真と松本」「秀真の真骨頂」と大きく4つの部分に分けられている。「はじめに」では、秀真が日本や東洋の古典的な文様やかたち、古代の金工品の研究を通じて、伝統を活かしながらも時代の感覚を取り入れてつくり上げた作品を紹介している。
例えば、古代の鏡の文様を模倣した作品や中国の古代器である鼎(てい)のかたちをもとにした香炉、そして8つの縁を持つデザインや二羽の鳥、瑞花や瑞鳥などの吉祥文様が施されている《鳥花文八稜鏡》(1929、千葉県立美術館蔵[北詰コレクション])などは、「はじめに」の部分で見ることができる。また、茶釜や鉄瓶といった日用品、東京国立博物館や千葉県立美術館にも所蔵されている花瓶などの作品には、繊細で美しい文様が施され、日常のなかに芸術を取り入れるという秀真の哲学が表れている。