2020.1.9

新たに発掘された初公開作品も多数。Bunkamura ザ・ミュージアムで「永遠のソール・ライター」が開幕

2017年に渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで日本初の回顧展が行われ、多くの来場者を集めた写真家ソール・ライター。その第2弾「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」が1月9日に開幕した。膨大なアーカイブのなかから、前回は発掘されていなかった世界初公開となる作品や、豊富な資料を展示。写真家ソール・ライターの実像に迫る展覧会となっている。

 

展示風景より、左から《無題》(1955頃)、《足跡》(1950頃)《赤い傘》(1958頃)
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 1950年代からニューヨークでファッション・フォトグラファーとして活躍、80年代に商業写真から退いてからも、2013年に死去するまでニューヨークを拠点に制作を続けた写真家、ソール・ライター。2017年には日本で初回顧展「ニューヨークが生んだ伝説 写真家 ソール・ライター展」が開催され、高い評価を得た。

 そのソール・ライターの展覧会の第2弾として、「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」がBunkamuraザ・ミュージアムで開幕した。本展は、2017年の回顧展以降に発掘された作品を選び出し、豊富な資料とともに展示。ソール・ライターの創作にさまざまな角度から迫っている。

ソール・ライター 薄紅色の傘 1950年代 発色現像方式印画 (C)Saul Leiter Foundation

 展覧会は第1部「ソール・ライターの世界」と、第2部「ソール・ライターの仕事場(アーカイブ)をたずねて」の2部構成。

 第1部「ソール・ライターの世界」では、初期のモノクロ作品から、パイオニアとも称されるカラー作品、さらにはデジタルカメラで撮影した晩年の作品までを展示する。

 なかでも、ソール・ライターのキャリアにおいて重要となる『Harper's BAZAAR』をはじめとする雑誌に掲載されていた、ファッション写真のアーカイブは必見だ。生涯を通じてソール・ライターがこだわった鏡や窓ガラスへの映り込みの表現が、モデルのポートレートに華を添えている。

展示風景より、左から《無題》(撮影年不明)、《キャロル・ブラウン『ハーパス・バザー』》(1955頃)、《ファッションテスト》(1960年代)、《『ハーパス・バザー』》(1960年代)

 また、00年以降にデジタルカメラで撮影したカラー作品は、20世紀から21世紀にかけて写真技術が大きく変化するなかでも、ソール・ライターが柔軟にそれを受け入れながら、写真への情熱を変わらず持ち続けていたことが伝わってくる。

ソール・ライター  バス 2004頃 発色現像方式印画 ⒸSaul Leiter Foundation
展示風景より、左から《ロンドンの地図》(2008頃)、《チーズ展》(2008頃)、《モンドリアンの労働者》(1954)

 作品の礎となったコンタクトシートも展示。なかには初期のソール・ライターの支援者で、彼の絵画をいち早く購入したダンサーのマース・カニンガムが映っているものもあり、当時のふたりの関係性をうかがうことができる。

展示風景より、コンタクトシート

 第2部は「ソール・ライターの仕事場(アーカイブ)をたずねて」。ソール・ライターの生前からアシスタントとして活動し、その作品を世に出すことに貢献したマーギット・アーブにより創設されたソール・ライター財団。カラー作品だけで8万点とも言われるソール・ライターの作品のアーカイブ化に取り組んでいる。この財団のプロジェクトを通して、ソール・ライターの実像に迫るのが第2部の狙いだ。

 とくに注目を集めそうなのが、プリントされることなく放置されてきた、数万点におよぶ未発表のカラー・スライドだ。デジタル化したそれらのスライドを、かつてソール・ライターが行っていたプロジェクターによるスライド・ショーのように展示する。写真家・井津由美子が撮り下ろした、ニューヨークのアトリエや周囲の街並みの写真も左右に映し出され、臨場感あふれる画面からソール・ライターの生活を垣間見ることができる。

展示風景より、カラー・スライドのプロジェクション

 また、ソール・ライターは小さいサイズの写真を偏愛しており、焼き付けた写真を手で小さく破り、それらを「スニペット」と名づけて愛好していた。今回は家族や恋人、知人、猫などの身近な女性を撮影したそれらを集め、各所で展示する。

展示風景より、スニペット

 さらに、ソール・ライターを支えたふたりの女性に焦点を当てた展示も第2部では見どころだ。父親の希望に背き、ニューヨークで写真家となったソール・ライターをもっとも理解していた妹のデボラ。『Harper's BAZAAR』のモデルであり、また画家として多くの作品を残した恋人のソームズ・バントリー。展示では、このふたりを撮影した写真作品はもちろん、ソームズが描いた絵画作品数点なども世界初公開する。

展示風景より、妹のデボラを写したスニペット
展示風景より、ソール・ライターの絵画作品

 他にも、当初は画家を志していたソール・ライターのスケッチや、生涯撮影し続けたセルフ・ポートレートなど、写真家像を浮かび上がらせる多数の資料が展示されている。

ソール・ライター セルフ・ポートレート 1950年代 ゼラチン・シルバー・プリント ⒸSaul Leiter Foundation
展示風景より、ソール・ライターのスケッチ

 豊富な初公開作品や資料により、前回の回顧展にも増して充実した展示が実現した「永遠のソール・ライター」。初めてソール・ライターの作品を目にする人にも、前回の展示を訪れる人にも、新たな発見を与えてくれることだろう。

展示風景より
展示風景より
会場入口