ネットと美術館を会場に。エキソニモ初の大規模回顧展「UN-DEAD-LINK」に見る、コロナ時代のインターネットアートの可能性
デジタルとアナログ、ネットワーク世界と実世界を柔軟に横断しながら、実験的なプロジェクトを数多く手がけてきたアートユニット・エキソニモ。その初となる大規模回顧展「UN-DEAD-LINK」が、東京都写真美術館でスタートした。
インターネットが大きく普及するきっかけとなった「Windows 95」が発売された直後の1996年に結成し、インターネットアートの世界を切り開いてきたアートユニット・エキソニモ。その初となる大規模回顧展「UN-DEAD-LINK アン・デッド・リンク インターネットアートへの再接続」が、恵比寿の東京都写真美術館で始まった。
エキソニモは、千房けん輔と赤岩やえによって結成されたユニット。デジタルとアナログ、ネットワーク世界と実世界を柔軟に横断しながら、実験的なプロジェクトを数多く手がけてきたことで知られる。近年では、「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」(水戸芸術館現代美術ギャラリー、2018)や「あいちトリエンナーレ2019」などへの参加が記憶に新しいという人も多いのではないだろうか。
本展は、そのエキソニモの24年間の活動を概観するものだ。出品作は、1996年にエキソニモがインターネットを用いて初めて制作したインタラクティヴな作品《KAO》から始まり、「あいちトリエンナーレ2019」 で展示された《The Kiss》、そして世界初公開となる新作《UN-DEAD-LINK 2020》(2020)に至るまで、20点の作品が並ぶ。
本展でもっとも注目したい点は、会場がネット上にも存在するということだ。ウェブ上に構築されたインターネット会場では、エキソニモ自身が本展のために作成した膨大な年表をもとに、作家による全作品解説や、作品の背景を理解するための様々なキーワードなどを見ることができる。
このアイデアは、新型コロナによって美術館という現実の場の存在が揺らぎ、作家の来日も不可能になるかもしれないという状況のなか、急遽生み出されたものだと、本展を企画した東京都写真美術館学芸員・田坂博子は語る。
このネット会場と美術館との連動は、作品にも見られる。2020年に制作された《UN-DEAD-LINK 2020》と《Realm》だ。
前者は、もともと2008年に《UN-DEAD-LINK》として制作されたもので、当初はシューティングゲームで敵を撃つとグランドピアノが鳴り、3Dのゲーム空間と現実のオブジェが連動するという作品だった。
新作となる今回は、ネット会場内で起こる「死」と連動し、実際の会場でグランドピアノが鳴り響く。エキソニモは、新型コロナウイルスによって毎日のように感染者数や死亡者数がメディアで伝えられながらも、その事実を実感としてとらえることができないという現状から本作を生み出した。
いっぽうの《Realm》は「領域」を意味する言葉。これは鑑賞者それぞれがスマートフォンを介して「触れる」ことで、美術館のスクリーンにその変化が反映される、インタラクティブな作品だ。安易に誰かに触れることができない、ソーシャルディスタンスが人々の身体距離を遠ざける現状が、墓場のイメージとともに示唆される。
展覧会のために来日したエキソニモの千房けん輔は、本展を振り返りこう語る。「リアルな展覧会でモノが実際に見えるということは、やはり体験として違う。データというのは、結局モノがないと存在できない。それを強く実感する機会となった。オンラインの活動が増え、加速するなか、自分たちが昔からやってきたインターネットアートは見直されるのではないか。いまはアートフェアなどをはじめ、オンラインで作品を展示する機会も増えているが、どうしても『本物じゃない』感じが出てしまう。そうしたとき、『ネット上でしかリアリティがないもの』が探求されると思うし、逆境だからこそそれが楽しみだ」。
新型コロナによってネット上での活動がさらに加速している現在。このタイミングだからこそ、本展でエキソニモとインターネットアートの歴史を振り返り、これからのインターネットアートの可能性を考えたい。