不可視の力を多様な表現でとらえる。「MOTアニュアル2020 透明な力たち」が東京都現代美術館でスタート
重力や磁力、そして人間の意識や感情、固定観念など、私たちの身の周りに存在している不可視の力を5組のアーティストが独自の解釈や方法で再構築・可視化する展覧会「MOTアニュアル2020 透明な力たち」が、東京都現代美術館で開幕した。
重力や磁力、そして人間の意識や感情、固定観念など、私たちの身の周りに存在している不可視の力。こうした自然界や社会のなかの「透明な」力やエネルギーのメカニズムを、独自の解釈や方法で再構築・可視化する5組のアーティストの試みに注目する展覧会「MOTアニュアル2020 透明な力たち」が、東京都現代美術館で開幕した。
日本の若手アーティストを中心に紹介するグループ展「MOTアニュアル」。今年で第16回目となる本展には、片岡純也+岩竹理恵、清水陽子、中島佑太、Goh Uozumi、久保ガエタンが参加しており、物理現象を日用品で再現する作品や、バイオ素材の作品、ワークショップや遊び的な活動で当たり前のことを問い直す作品など、多様な表現で私たちを取り巻く不可視の力について考察する。
展覧会の冒頭部に登場したのは、アーティスト・デュオの片岡純也+岩竹理恵による「動き」のあるインスタレーション《回る電球》。外した電球を机に置いたときの回転から着想を得た同作は、さりげない一瞬の動きを反復することで、物体の運動や磁力などの自然現象を再現する。
展示室1では、片岡+岩竹は展示空間をひとつの装置として見立てた。片岡が手がけた、日用品に重力や磁力などの物理的なエネルギーを加えて動きを見せるインスタレーション作品や、岩竹が博物辞典や切手などの断片を組み合わせ、コラージュや写真などの手法で制作した平面作品を展示している。
例えば、茶室を舞台にした版画シリーズ《Room》では、科学実験を思わせる器具などのモチーフがコラージュ手法で画面に均一に統合されている。いっぽうで、頭蓋骨や地球儀、本、パイプ、木の枝などのオブジェを使ったキネティックな立体作品は、平面作品と直接的に交錯しているように見られる。
微生物、細胞、DNA、有機物などのミクロの世界から植物、自然、地球全体におけるマクロの現象を可視化する作品を制作している清水陽子。本展では、その過去のプロジェクトから現在進行中のプロジェクトまで、6つのシリーズを写真、映像、資料、理化学機器などを用いて展示している。
光合成のメカニズムを用いて、葉の表面にグラフィックプリントを施す「Photosynthegraph」シリーズには、フェルメールやダ・ヴィンチの作品をはじめ、文字、幾何学模様、日常風景などのグラフィックが焼き付いている。会場では、その現像過程で使われる溶剤や器具なども完成した葉のプリントとともに展示されている。
重力や光など普段意識しない力を可視化する「Gravitropism」シリーズでは、チューリップの球根を空中で逆さに栽培し、茎が180度曲がり、太陽の方向に向かって成長していく様子を写真や映像でとらえ、植物の重力屈性を見せた。
アートとテクノロジーの領域で活動し、機会学習や監視社会、プログラマブル・マネーなどを考察する作品を国内外で発表するアーティスト、Goh Uozumi。本展では、複数の新作や既存作で構成される《New Economic War》を発表した。
会場の床にプリントされたQRコードをスマートフォンで読み込むことで、バーチャル貨幣を取得することができるという《ACOIN》や、AIによって生成されたドナルド・トランプやジョー・バイデンなど政治家のように振舞う人物が、空虚な会見放送を読み上げる映像が流される《Welcome To Attention Economy》などで構成された本作。ソフトウェアやプロトコル、印刷媒体などが混在しており、質量を持たないものが「新しい資源」となっている現代社会の仕組みを考察するものだ。
中島佑太の《あっちがわとこっちがわをつくる》は、これまで継続的に行っているワークショップから着想を得た参加型作品。会場の中央には新聞紙でできた人の背丈ほどあるバリケードがそびえ立っており、鑑賞者は両サイドにある紙と筆記用具を使って、「ルール」に関するアイデアを書いて紙飛行機を壁の「向こう側」に送り合うことができる。向こう側から送られてきたルールを守る理由を考えながら、修正案などを書いて送り返すというものだ。
新型コロナウイルスの影響で一変した生活も反映した同作では、バリケードは抽象的な分断を象徴しつつ、ソーシャルディスタンスやオンラインでの匿名的なコミュニケーション、公共の安全のための監視システムなど、様々な連想を鑑賞者にうながすものとなっている。
展覧会の最後には、超常現象や自然科学的に知覚できないものなどを独自の装置や映像ナラティブで考察する久保ガエタンの作品が登場する。
電話を発明したベルによる音の振動を記録する装置や、死者の声を聴くという構想から始まったエジソンの蓄音機など、音や振動をとらえようとした近代の発明にまつわるエピソードを久保の独白によって進行する映像が上映。映像の最後では、地震時の地響きと振動が鑑賞者の背後から襲い、展示室に陳列されている、久保が自作した電気ナマズ式地震予知装置が作動する。
重力や磁力などの物理法則からミクロな微生物や細胞、そして新型コロナウイルスの感染拡大による社会変化など、様々な「力」を多様な表現でとらえた作品をぜひ会場で目撃してほしい。