伝統産業を現代美術で再定義。舘鼻則孝ディレクションの「江戸東京リシンク展」がオンラインで開催へ
歴史ある東京の伝統産業を現代美術で表現するオンライン展覧会「江戸東京リシンク展」が3月上旬に開催。舘鼻則孝のディレクションによる本展では、舘鼻が伝統産業を受け継ぐ事業者とコラボレーションした作品に加え、映像や写真などの資料を展示する。
江戸東京から受け継がれてきた匠の技術やノウハウなどを新しい視点から磨き上げ、世界へと発信していく「江戸東京きらりプロジェクト」。その一環として、オンライン展覧会「江戸東京リシンク展」が3月に開催される。
本展は、日本の伝統文化を現代美術として表現するアーティスト・舘鼻則孝のディレクションによるもの。伝統産業を受け継ぐ8種類の事業者が参加する展示では、舘鼻が「うぶけや」「伊勢半本店」「龍工房」といった事業者とコラボレーションした作品に加え、映像や写真などの資料も展示する。
実際の展示会場となるのは、昭和初期(1936年)に建てられた華族邸宅で、現在は東京都指定有形文化財として登録されている和敬塾 旧細川侯爵邸。各部屋の歴史的な様式を生かし、舘鼻の演出による展示構成となる。
オンライン展示に先立って行われた内覧会では、上述の3事業者と現代美術を掛け合わせた新作を展示。例えば、アクリルのかたまりを削りだすことでかたちづくられる「Void Sculpture」シリーズでは、1783年に各種打刃物の製造販売を専業とする刃物店として創業したうぶけやの花ハサミを使用している。
立体作品のなかに浮遊する「雲」のモチーフは、舘鼻にとって生と死の境界線を示すもの。アクリル自体を削り落とすことで立体的に見えており、質量の無いマイナスの空間として成立している。また、花ハサミによって切られている雲は、仏教思想で言う輪廻に象徴されるような無限を意味しており、花を切り取り生けることで新たな価値観を与える生け花も暗喩している。
1825年に紅を製造・販売する紅屋として創業した伊勢半本店は現在、秘伝の製法による玉虫色の紅を江戸時代からつくり続けている唯一の紅屋。その玉虫色の紅を唇に載せて緑色に輝かせる「笹紅」という化粧法は、江戸時代の女性のあいだでたちまち流行していた。
乾いた状態で玉虫色に発色する紅だが、その表面を湿らせた筆で撫でると、一瞬で鮮やかな赤色に変わり、口紅として使うことができる。そんな伊勢半本店の紅を用いて制作されたのは、舘鼻の代表作とも言えるヒールレスシューズと、「Descending Layer」と名付けられた立体作品シリーズだ。
本来は赤色の紅として使用される伊勢半本店の紅だが、今回ヌメ革の素材を使ったヒールレスシューズでは、乾燥した状態でも玉虫色の輝きが失われないということが新しい気付きだったという。また、舘鼻は伊勢半本店と研究を重ねて特別な技法を施し、乾いても玉虫色に変わらない紅を立体作品に雲や雷のモチーフとして使っている。
1963年に創業以来、組紐にあった糸づくりから染色・デザイン・組みまでを一貫して行う龍工房とコラボしたヒールレスシューズは、表裏が2色で分けられた厚みのある角形の組紐を用いた作品。組紐の色目は本作のために調色されたもので、普段から絵画作品などで用いられている舘鼻のカラーパレットから選ばれた色を使っている。古から継承された伝統的な技術と、現代の前衛的な感性を結びついて生みだされた作品だ。
江戸東京きらりプロジェクトは現在、モデル事業として17事業をサポートしている。館鼻は、「『江戸東京リシンク展』には8事業者が参加していますが、これからもコラボレーションができるような事業者を増やし続けたい。その可能性は無限大だと思います」と語っている。
江戸時代から受け継がれてきた伝統産業。その価値や魅力を新たなかたちで再解釈する展覧会をぜひお見逃しなく。