金沢で蘇る甲冑。「甲冑の解剖術 ―意匠とエンジニアリングの美学」が伝える甲冑の未来とは?
戦国時代から江戸時代にかけて独自の発展を遂げてきた「甲冑」。加賀藩前田家の歴史を持つ金沢を舞台に、現代に甲冑をアップデートする展覧会「甲冑の解剖術 ―意匠とエンジニアリングの美学」が金沢21世紀美術館でスタートした。その概要をレポートでお伝えする。
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「甲冑の解剖術 ―意匠とエンジニアリングの美学」が金沢21世紀美術館で開幕した。若手クリエイターたちと協働し、日本独自の文化資産である「甲冑」の魅力を現代に伝える試みだ。会期は7月10日まで。
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戦の防具であると同時に、武将の力と誉を象徴するものでもあった甲冑。本展は全国の所蔵館から集結した珠玉の甲冑を、従来の方法からアップデートして展示。また、現代を生き抜くための甲冑として「スニーカー」に着目し、過去・現代・未来を横断的に解釈する。
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同館館長の長谷川祐子は本展について「美術館の中に歴史的なものとして保存され、私たちの生活から距離のあった甲冑を、感情や等身大のリアリティ、身体性をもって現代に伝えることができるのか」を考えたという。
ひとつめの部屋では、石川県立歴史博物館や大阪城天守閣、井伊美術館などから選び抜かれた6領の甲冑を展示。異なった個性を持つ甲冑を360度どこからでも鑑賞できるような展示ケースにくわえ、床から高さのある台座にのせる通常の展示方法ではなく、着座しているほぼ等身大の姿で見せる。これまでの鑑賞方法では見ることができなかった兜や組紐など、そのディテールを存分に楽しめるだろう。
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とくに《紅糸威仁王胴具足》(室町〜桃山時代)には乳首やへその造形が見られ、身体の表象が直接的に現れているとともに、甲冑が身体の一部であったことが分かる。
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また、床には砂絵を思わせるインスタレーションを設置。本展の会場デザインを手掛けたナイル・ケティングは、それぞれの甲冑にあるシンボルのような紋様を表現するにあたり、日本庭園の様式である枯山水からインスピレーションを得たという。砂の上では小さな球体が絶え間なく動いており、永続的に紋様が描かれていく。
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次の展示室では、甲冑を実際に身にまとえるものとして再提示する。まず目に止まるのは、スタイリスト・三田真一による未来的な甲冑《連続の断片》(2008)の姿だ。スニーカーをつなぎあわせてつくられた同作は、女性の身体を思わせるフォルムと強さを兼ね備えている。
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その前に寝かされるように展示された甲冑《錆朱塗碁石頭胴具足》(桃山時代)は、実際に戦に使用されたもの。刀痕を付けて横たわる甲冑を、未来から来た甲冑が敬意を持って見下ろしている物語が表わされている。
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ライゾマティクスによる《Displayed Kacchu》(2022)は、伊達政宗の甲冑をCTスキャニングしたデータ視覚的に表現した映像作品。甲冑の断面や内部の構造など、通常は肉眼で見ることのできないものを可視化する試みである。
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また、ファッション・ブランド「HATRA」とフットウェア・ブランド「MAGARIMONO」のコラボレーションによりデザインされた、3モデルからなるスニーカーを展示。甲冑の紋様や意匠にインスパイアされた現代の甲冑・スニーカーと時空を超えた競演に注目したい。
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ナイル・ケティングはこの展示空間について、当時の武士が身につけていた教養をセレクトショップやコンセプトストアのようなかたちで昇華したという。ところどころに配されたオブジェクトは、和歌や茶道などの当時の精神世界が表現され、甲冑が現代におけるファッションや戦いのメタファーのように見えてくる。
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日本の美術工芸の極みとして、または力強さの象徴として語られてきた甲冑。本展は甲冑を現代アートやファッションに接続し、過去から現在、そして未来へと軽やかにつなげていく。私たちがまだ知らない甲冑の姿を、ぜひ会場で体感したい。