日本画で「水」はどう描かれてきたのか? 山種美術館の特別展「水のかたち」に見る多様な表現
東京・広尾の山種美術館で、なんとも涼しげな特別展が始まった。「水のかたち―《源平合戦図》から千住博の『滝』まで―」と題された本展は、水を印象的に描き出した日本画の優品の数々を展示することで、その多様性を紹介するものだ。会期は9月25日まで。
猛暑が続く日本列島。そんななか、東京・広尾の山種美術館がじつに清涼感ある特別展「水のかたち―《源平合戦図》から千住博の『滝』まで―」を開催している。会期は9月25日まで。
四方を海に囲まれ、湿潤な気候で降水量の多い日本では、水は身近な存在であり、古来、名所絵や山水画、物語絵など、様々な主題のなかで描かれてきた。近代以降の日本画においても、海や湖、川や滝を題材とした風景画から、水辺の場面を描く歴史画まで、水が主要なモチーフとなった作品は、時代やジャンルを問わず幅広く見いだすことができる。
本展は、奥村土牛の《鳴門》(1959)から始まり、ゴッホが模写したことでも知られる歌川広重の名所絵のひとつ《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》(1857)、中国の幽玄な山水の景を水墨で描き出した松尾敏男の代表作《連山流水譜》(1982)、画家の代名詞にもなっている千住博の「滝」シリーズ、高価な群青色の岩絵具をふんだんに使って海と飛び魚の群れをダイナミックに描いた川端龍子の《黒潮》(1932)、そして海辺を舞台とした筆者不明の六曲一双屏風《源平合戦図》(17世紀)まで、水を印象的に描き出した作品が時代を超えて並ぶ。
なかでも、《連山流水譜》が山種美術館で展示されるのは24年ぶり。また4メートル超の大作で鳴門海峡を描いた石田武《鳴門海峡》(1992) は16年ぶりの公開となる。
本展監修を務めた山種美術館顧問の山下裕二は、「水にまつわる作品だけで展覧会ができるほど、当館には沢山の所蔵品がある。山種美術館の蔵の深さを示すことができるのではないか」と自信を覗かせる。
刻々と姿を変え、多彩な表情を見せる水。約50点の作品を通し、画家たちがとらえてきた個性豊かな「水のかたち」を見つめて、涼を感じてほしい。
なお、山種美術館では本展と同時に特集展示「 日本画に描かれた源平の世界 」も開催中。NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』やアニメ『平家物語』で注目を集める源平の物語は、日本画でもたびたび取り上げられ、小林古径や前田青邨をはじめ、歴史画を得意とする画家たちを中心に描き継がれてきた。
源義経と藤原秀衡を描いた安田靫彦の《平泉の義経》(1965)や、平清盛の娘・徳子(建礼門院)を描いた今村紫紅の《大原の奥》(1909)など、いまあらためて注目を集める源平の主人公たちに作品を通して出会ってほしい。