2023.4.30

韓国・ソウルに2番目のギャラリーをオープン。「Peres Projects」が若手作家の育成に注力する理由とは

ベルリン、ミラノ、ソウルの3都市に展示スペースを構えているギャラリー「Peres Projects」(ペレス・プロジェクツ)が、ソウルにおける2つ目の展示スペースを4月28日にオープンした。同ギャラリーが若手作家の育成に注力する理由について、創設者ハビエル・ペレスの言葉とともに紹介する。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「Cece Philips: Walking the In-Between」展の展示風景より
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 キューバ出身のギャラリスト、ハビエル・ペレスによって設立されたギャラリー「Peres Projects」(ペレス・プロジェクツ)は、昨年4月に韓国・ソウルにある高級ホテル「新羅ホテル」の地下1階に開設したアジア初の拠点に続き、同市の北部に2つ目の展示スペースを4月28日にオープンした。

 同ギャラリーは2002年にサンフランシスコに創設。05年にベルリンに支店を開設して以降、徐々にヨーロッパに軸足を移しており、現在はベルリン、ミラノ、ソウルの3都市に展示スペースを構えている。

 ソウルにある新しいスペースは、国立現代美術館(ソウル館)をはじめとする美術館や、Kukje Gallery、Gallery Hyundai、Hakgojae Gallery、ペロタンなどの国際的なギャラリーに隣接。また、近くには景福宮や北村韓屋村、大韓民国歴史博物館など、韓国を代表する文化的ランドマークも存在しており、ソウルでもっとも文化芸術の活動が盛んな地域だ。

「Peres Projects」新しいスペースの外観

 4階建ての真新しいギャラリーには3つの展示スペースが設けられており、多様な展示プログラムを柔軟に開催することができる。オープニングとともに、ロンドンを拠点に活動するアーティスト、シシ・フィリップスの個展「Walking the In-Between」と、ギャラリーの取り扱い作家によるグループ展「The New, New」が始まっている。

 昨年、原宿にあるjingで開催された企画展「Veuve Clicquot Solaire Culture」にも参加したシシ・フィリップスは1996年ロンドン生まれのアーティスト。彼女にとって同ギャラリーでの2回目の個展であり、アジアでは初個展となる本展では、夕暮れ時、昼と夜の変わり目の風景を描いた新作が展示。ロンドン、フィレンツェ、カリフォルニアを想起させる街角やバーでひとり佇む女性の姿や、グラスを傾ける女性たちが描かれたこれらの作品では、夕暮れの青い色調と明るい黄色の色調が対照的に使われ、神秘的な雰囲気が漂う。

「Cece Philips: Walking the In-Between」展の展示風景より

 いっぽうのグループ展では、ラファ・シルヴァレス、エミリー・ルートヴィヒ・シェイファー、ジョージ・ルイ、アントン・ムナー、ジェレミー、パオロ・サルヴァドール、オースティン・リーといった、様々な文化的、社会的、地理的な背景を持つ7人のアーティストをフィーチャー。自らの個人的な経験をもとに、空間、時間、デジタル世界との関係を再考し、具象絵画の新たな可能性を探求する作品群が紹介されている。

「The New, New」展の展示風景より

オープンな姿勢で若手アーティストの育成に注力するギャラリスト

 4月27日に行われた記者会見でペレスは、「私はカリブ海のとても小さな国出身のゲイの男。これらのことが明らかに私の世界観に影響を与えている」と話している。

 共産主義の国で育ち、アートコレクターの祖父母や政治的な活動家で後に追放された母親といった独特なルーツを持つペレスは、「私だけの特別な人生をかたちづくった」としつつ、偉大な物語を持つ人々に惹かれるという。「私は一般的に、自分の鏡のようなコピーは好きではない。自分なりの面白さがあり、作品を通して人生経験を共有できる人が魅力的だと思う」。

 そのため、ともに仕事をするアーティストを選ぶときは、「超面白い」ことが一番重要だという。「本や演劇、オペラ、映画と違って、美術作品は自分のなかに残り、何度も見返すことができるとてもユニークな方法だから、20年経っても若手アーティストに魅了され続ける」。

「The New, New」展の展示風景より

 同ギャラリーの取り扱いアーティストのラインナップを見ると、ほとんどが1980年代以降に生まれたアーティストであることがわかる。若手アーティストを積極的に紹介するきっかけについて、ペレスは次のエピソードを紹介している。

 「私の祖母は獣のような人だった。彼女は驚くべき視覚的知識を持っていた。彼女から初めてお金をもらって美術品を買ったとき、ジャン・デュビュッフェという古い作家の作品を買ってしまい、彼女に怒られたのを覚えている。彼女は、『何をやっているんだ?』『なんで私も買うようなアートを買ったの?』『あなたの世代のアートを買いなさい』というようなことを言われ、それがずっと心に残っている」。

「The New, New」展の展示風景より

 このように、ペレスは若手アーティスト、とくに「歴史的に西洋の美術界で存在感の薄い背景を持つ若いアーティスト」の育成にこだわり続ける。また、世界中の様々な都市でプロジェクトスペースの運営や現代美術の展覧会を行うことで、美術機関やキュレーター、批評家などのコミュニティとのつながりを強化することにも取り組んでいる。

 ペレスは、「毎月、世界中の美術館で展覧会を行うギャラリーのアーティストがいる」と誇らしげに語る。韓国だけでも、現在、ソウルの金浦空港近くにあるアートセンター「Space K」でドナ・ファンカの個展「BLISS POOL」(〜6月8日)と、クァンヤン市にある全南道立美術館でリチャード・ケネディの個展「Acey-Deucey」(〜6月4日)が開催されている。

Space Kで開催されている「Donna Huanca: BLISS POOL」展の展示風景より

 昨年初めて開催された「フリーズ・ソウル」に先立ち、タデウス・ロパックグラッドストーンペロタンがソウルに新しいスペースを開設し、また、今年はパリのポンピドゥー・センターもソウルに近現代美術館を建設する計画を発表している。

 韓国のアート界がますます熱くなっているなか、ペレスはソウルにスペースを構えた理由を、「この地域のなかで韓国がもっともオープンで、もっとも活動しやすい場所だと思ったから」と振り返る。ユニークな個人的経験やオープンマインドな姿勢を持つペレスは、ソウルのアートシーンにさらなる活力を与えてくれるに違いない。