大阪中之島美術館で見る、生活に根ざした「民藝」の姿
大阪中之島美術館で、同館初となる「民藝」をテーマとした企画展「民藝 MINGEI─美は暮らしのなかにある」が開幕した。会期は9月18日まで。
いまから約100年前、柳宗悦、濱田庄司、河井寬次郎によってつくられた美の概念「民藝」。その現在進行形の姿に迫る企画展が、大阪中之島美術館で開幕した「民藝 MINGEI─美は暮らしのなかにある」だ。会期は9月18日まで。担当学芸員は北廣麻貴。
民藝は「民衆的工藝」を略した言葉で、日々の生活のなかにある美を慈しみ、素材やつくり手に思いを寄せる文化をも包括した概念だ。2021〜22年にかけて東京国立近代美術館で開催された「柳宗悦没後60年記念展『民藝の100年』」は、民藝の活動を総点数450点を超える作品と資料を通して振り返り、その軌跡と内外に拡がる社会、歴史、経済を浮かび上がらせるものとして大きな話題を集めた。
この記憶も新しいなかで開催される本展「民藝 MINGEI─美は暮らしのなかにある」は、衣食住の観点から、民藝が持つ「私たちの生活に身近なもの」という側面に光を当てるものだ。出品作品は日本民藝館の所蔵作品を中心に約150件が並ぶ。
キュレーターの北廣は、本展の狙いについて「暮らしを豊かにするヒントとして、民藝のエッセンスを持ち帰っていただきたいと企画した。民藝という言葉を聞いたことがあるがどういうものかはわからないという人にも、民藝について考えるきっかけを与えたい」と話す。
また監修を務めた美術史家の森谷美保は、「これまでの民藝の企画展はどうしても柳宗悦の生涯と民藝の歴史をたどるものになってっていた」としつつ、本展はあくまで暮らしと民藝をテーマにした「より身近に民藝を感じてもらえる構成」になっていると語っている。
展示は3章で構成。柳宗悦が民藝館開館(1936)の5年後、1941年に民藝館のひとつの展示室で開催した「1941生活展」が本展の導入(第1章)となる。ただ物を陳列するのではなく、展示室内に生活空間をつくったこの展示は「インスタレーション」とも呼べるもの。その景色からは、柳がいかに「用の美」を重視していたかが直感的に理解できるだろう。
第2章は「暮らしのなかの民藝」として、柳らが収集した民藝の品々が衣食住の3つの側面から紹介される。第1章からシームレスにつながる用の美を、様々な産地・素材のものから堪能できるセクションであり、柳が惚れ込んだ沖縄県の着物や器を並べた特集展示にも注目だ。
終章にあたる第3章「ひろがる民藝」では、柳の没後に濱田庄司や芹沢銈介、外村吉之介らが1972年に刊行した書籍『世界の民芸』を起点に、海外の多様な民藝を紹介。
また同章では、民藝運動によって見出され、再評価された日本各地の工芸産地のなかから、小鹿田焼、丹波布、鳥越竹細工、八尾和紙、倉敷ガラスの5ヶ所の実例を展覧。民藝のいまを映像を踏まえて見つめてほしい。
また最後のコーナーでは、昨年までセレクトショップ「BEAMS」のディレクターとして現在の民藝ブームの隆盛に大きな役割を果たしてきたテリー・エリスと北村恵子(MOGI Folk Art・ディレクター)によるインスタレーションが展示。現代のライフスタイルと民藝をいかに融合することができるのか。その実践がそこにはある。
本展開催に際し、日本民藝館の深澤直人館長は、民藝がいまなお多くの人々を魅了する理由として、「思想が生活に根ざしているからだ」と語る。本展では展示と接続する特設ショップに、日本各地の民藝を取り扱う店舗から選りすぐられた多数の民藝が並ぶ。この構造も、民藝を遠いものとしてではなく、現代の生活に地続きなものとしてとらえるための工夫のひとつと言えるだろう。
なお本展は、大阪展の後に福島、広島、東京、富山、愛知、福岡に巡回予定となっている。