未来館が音と手でさぐる新展示「プラネタリー・クライシス」を共同開発中。視覚障害者の自立した鑑賞体験を実現
7年ぶりのリニューアルとして新たに公開された日本科学未来館の4つの常設展示。現在、そのうちのひとつである「プラネタリー・クライシス」において、視覚障害者向けの「音と手でさぐる展示体験」を創出するコンテンツが開発中となっている。
11月22日、7年ぶりのリニューアルとして新たに公開された日本科学未来館(以下、未来館)の4つの常設展示。そのうちのひとつで、「地球環境」をテーマにした展示「プラネタリー・クライシス」において、視覚障害者の自立した鑑賞を支援するための「音と手でさぐる展示体験」を創出するコンテンツが現在開発中となっている。
これは、2021年の2代目館長・浅川智恵子の就任に伴い設置されたコンソーシアム型研究室「未来館アクセシビリティラボ」による、音声MR(空間の特定の位置にひもづけて音声情報を再生する複合現実)を用いたもの。このラボに参画している株式会社乃村工藝社と、今回のイベントで技術協力を行っている株式会社GATARIの2社によって共同開発された音響体験サービス「oto rea(オトリア)」を導入することで、視覚障害者向けに、自立したミュージアム体験を提供することが目的となっている。
この体験で使われているのは、メガネ型オーディオデバイスと専用システムが搭載されたスマートフォンだ。専用システムには、デジタル上で音を配置する技術が用いられており、首からかけたスマートフォンを通じて、ユーザーの位置や動き、向きを認識。それにあわせてメガネ型オーディオデバイスから音響エフェクトが発せられるといった仕組みだ。このコンテンツの体験時間は約10分間で、ストーリー性のあるナビゲーションと、触れる展示と組み合わせた多面的な鑑賞体験が特徴であると言える。
実際にこの体験をしたロービジョンの方は、「目の見えている人が一緒にいれば内容を聞くことができるが、ひとりで鑑賞する際はオーディオデバイスが呼びかけてくれるのがありがたい。気温や海面の上昇についてニュースで耳にはするがピンと来なかった。手で触ることで、そのリアリティを感じることができる」と感想を述べていた。
副館長であり、アクセシビリティラボのマネージャーも務める高木啓伸は、同コンテンツの開発について次のように語る。「浅川館長就任以来、未来館におけるアクセシビリティの拡充を推進してきた。一般的にミュージアムにおける視覚障害者向けの情報保障としては、『触れる展示の設置』『触地図や点字の設置』『音声ガイド』といったものがあるが、より豊かなミュージアム体験としては不十分であると感じていた。開発中のコンテンツには、音のする方向に近づく、といった新たなユーザビリティを採用した。より自由な鑑賞体験を視覚障害者向けに創出し、科学について伝えることができたらと考えている」。
また、コンテンツの共同開発を担う乃村工藝社プランニングディレクター・渡邉創は次のように語る。「様々な空間デザインを担う弊社は『ソーシャルグッド』という社会課題の解決に向けたビジョンを掲げており、触れる展示と音声MRによって『誰もが同じ感動を』を目指し取り組んでいる。このような体験や技術がミュージアムのスタンダードとなるようにしていきたい」。
なお、このコンテンツは12月17日に一般向けイベントとして、全盲の方を対象に実証実験が実施された。そこでのフィードバックをもとにコンテンツの評価を行い、改良が検討されるという。