「TERRADA ART AWARD 2023」、各審査員賞が発表。今年のファイナリスト展に見えてきた傾向とは?
寺田倉庫が主催する現代美術のアワード「TERRADA ART AWARD 2023」。ファイナリストとして選出された金光男、冨安由真、原田裕規、村上慧、やんツーに授与する審査員賞が発表され、「ファイナリスト展」も始まった。
寺田倉庫が主催する現代美術のアワード「TERRADA ART AWARD 2023」。そのファイナリスト5組に授与する審査員賞が発表され、「ファイナリスト展」が1月10日にスタートした。会期は1月28日まで。
今年は、国内外1025組の応募のなかから金光男、冨安由真、原田裕規、村上慧、やんツーの5組がファイナリストとして選出。各ファイナリストには、それぞれ最終審査員の鷲⽥めるろ、金島隆弘、神谷幸江、真鍋大度、寺瀬由紀から審査員賞が授与された。
今年のファイナリストについて、審査員のひとり・神谷幸江(美術評論家、キュレーター)は授賞式で「若いアーティストの表現に対する熱意を感じることができた。『私』という一人称から始まっているコンセプトが多かった」とし、5人のファイナリストは「『私』の殻をどう突き破り、『私』をどのように世界とつなげていくか」という試みの第1歩を踏み出したとコメントしている。
神谷が賞を与えた原田裕規は、数年にわたってリサーチを重ねてきたハワイの日系アメリカ人をモデルに制作したデジタル作品《シャドーイング(3つの自画像)》を発表。同作について神谷は、「過去と現代、そして他者と自分をつなげる複層的な要素をテクノロジーを介し、語り、映像、文字を組み合わせながら編み込んだ新しいチャレンジだ」と評価した。
金島隆弘(金沢美術工芸大学 准教授)は次のように話した。「今年は、動的または演劇的な要素だったり、様々な人が一緒につくり上げるようないまの時代らしい作品が多い。作品をただ制作するのでなく、アーティストの振る舞い自体が少し変わってきている。それによって作品の見方も変わるという新しい展開を今回のアワードを通じて感じている」。
金島隆弘賞を授与された冨安由真は、絵画、サウンド、照明、構造物などの媒体を用いたインスタレーション作品を展示し、無機質な空間をつくり上げている。心霊現象や超能力など科学的に解明されていないものに関心を持つという冨安の作品について、金島は「美術作品をたんにつくる以上の視点を持ちながら、作品として表現している」とコメントした。
寺瀬由紀(アートインテリジェンスグローバル ファウンディング・パートナー)は、今回の選考について次のように述べた。「最後まで迷った作家がたくさんいた。ファイナリストの5組と残ることができなかった作家とは本当に僅差だったので、日本の若い作家の非常に多彩な考えを得ることができ、 自分も頑張ろうと元気をもらうことができた」。
寺瀬が賞を与えたやんツーの作品は、1日1~2回のみ、各回に30分上演される演劇的なもの(それ以外の時間帯はブルーシートで覆われており、鑑賞することができない)。倉庫を舞台に設定した同作では、3つのロボットがドローイングをしたり、オブジェクトや立体作品を運んで展示台に載せたり、「美術」について話し合ったりするパフォーマンスを繰り返す。審査員のなかでもっともアートマーケットに近い立場で美術に関わっている寺瀬は同作について、美術の意味や価値、または「買われたのに倉庫で見てもらえないという美術の切ない感覚や不条理な部分を感じた」と話している。
真鍋大度(ライゾマティクス ファウンダー、アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJ)は、「今回の審査において見えてきた傾向のひとつは、リサーチベースや課題ベースの作品が多かった」としながら、審査員賞を与えた村上慧の作品は「夢から始まり、本人の経験から生まれたパーソナルなものだ」と評価している。
舞台上で草の茂みが話しかけてくるという夢を見た村上は、同じ頃、認知症気味の祖父が深夜に廊下のコート掛けを人間だと思っていることが発覚したという。本作について、真鍋はこう続ける。「人間の感覚装置のようなものが貧弱なので、正確に変換できないことによって今回の面白い作品がつくられた。そこに村上さんの妄想力や変化力の強さを感じた」。
鷲⽥めるろ(十和田市現代美術館 館長、東京藝術大学 准教授)は、今回選ばれたファイナリストの特徴について「いままでやっていないようなことに新しくチャレンジした作品が多いと感じた。私自身にとっても勇気を与えてくれ、チャレンジする姿勢に感銘を受けた」と述べている。
鷲⽥めるろ賞を与えられた金光男は、蝋でつくられたカヌーが熱源を備えた金属製の展示台に時間とともにゆっくりと溶けて崩れていくインスタレーションと、蝋でつくられた平面作品を展示。金の作品によく登場するモチーフであり、隔てられたものをつなげていくというような意味合いを持つカヌーだが、鷲⽥は「いままで使っていたカヌーのなかに蝋を入れるというようなものでなく、今回はカヌー全体が崩れていくというチャレンジを完成させることによって、作品が非常に強くなった」と評価している。
また、寺田倉庫の取締役兼専務執行役員である秋元雅宏は授賞式で、同アワードを2年に1回開催し、次回を2025年に開催することを宣言し、ファイナリストの作家たちに対して次のような期待を寄せている。「ぜひ、この機会をとらえて国内のみならず、海外でもますます活躍していただきたい。寺田倉庫としては、この授賞式で終わるのではなく、今後の制作活動についてもぜひ、サポートをさせていただきたいと思っている」。