恵比寿映像祭2024が開幕。「月へ行く30の方法」を通じて未来への足がかりを模索する
東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイスセンター広場などを中心に展開される「恵比寿映像祭2024『月へ行く30の方法/30 Ways to Go to the Moon」』」がスタートした。会期は2月18日まで(コミッション・プロジェクトは3月24日まで)。
東京・恵比寿の東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイスセンター広場などを中心に展開される「恵比寿映像祭2024『月へ行く30の方法/30 Ways to Go to the Moon」』」がスタートした。会期は2月18日まで(コミッション・プロジェクトは3月24日まで)。担当キュレーターは田坂博子(東京都写真美術館)、兼平彦太郎(共同キュレーター)。
同映像祭は、映像をめぐる様々な選択肢に目をむけ、多様化する映像表現と映像受容の在り方を問い直し、発信してきた。第16回目の開催を迎える今年の映像祭では、現代美術家・土屋信子によるプロジェクトタイトル「月へ行く30の方法」を全体テーマに掲げ、映像表現におけるオルタナティヴな視点や、アーティストらの表現を通じて未来への取り組みを模索するものとなっている。また、複製メディアである映像や写真などにおける「一回性」にも焦点を当てている。
作品は、おもに写真美術館の2階、3階、地下1階展示室、恵比寿ガーデンプレイス センター広場などに展開されている。2階展示室は、展示のための壁はあえて設けず、より自由度の高い会場構成に。作品も現代作家らの作品と同館コレクションが緩やかにリンクするような新たなアプローチがなされている。
そのなかから現代作家らの作品をいくつか紹介したい。ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダによる《Caducean City》は、2006年にボローニャ近代美術館の依頼で制作した作品をリマスターしたものだ。「美術館の役割について」というテーマの回答として制作された本作は、救急車の視点からボローニャの街を撮影。公共機関との複雑な連携により実現したこの作品を通じて、アーティストだけがアートを制作するのではない、ということに作家自身も気づかされたのだという。
今回の映像祭の魅力は、作家が必ずしも映像を展示しているわけではない、という点にある。パフォーミングアーツに関心を持つ髙橋凜は、東京五輪の際に描いたというドローイングと、ひとりでは立つことができない表彰台を制作。作品を通じて、他者との協働に着目するものだ。2月12日には参加型のワークショップ&パフォーマンスも実施されるため、足を運ぶ際はぜひ参加してみてほしい。
有馬かおるによる《〈行為(孤高継続)存在〉道〉2023.1.31〜》は、1000ページにも及ぶカントの『純粋理性批判』を支持体に、毎ページにドローイングを描くというものだ。会期中はスタッフが約10分に1度ページをめくる。鑑賞者は、同じページを何度も見ること、またすべてのドローイングを見ることができない。自身でコントロールできないがゆえの「一回性」を楽しむことができるだろう。
3階展示室では、昨年の「コミッション・プロジェクト」にて特別賞を受賞した、金仁淑と荒木悠の作品が展示されている。
金によって展示されるふたつの作品は、ジェントリフィケーションによって変わりゆく街を舞台としたもの。《House to Home》では、植民地時代につくられた旧韓国の家屋に参加者が集まり、コミュニティの変化や、家族の在り方について語る様子を撮影したものだ。
《Ari, A letter from Seongbuk-dong》では、未来のアーティストである少女アリと一緒に街を歩きながら、必ず変わっていく街と人に着目。我々の未来において、伝統的なものと新たな文化の融合はどうあるべきか、そのような問いを一緒に考察していくような作品となっている。
荒木悠は、2013〜14年に制作したデビュー作《The Wrong Route》《ROAD MOVIE》を展示している。これらの制作がなされたきっかけは、当時アイスランドのとある村に滞在した際、唯一外食できる店がガソリンスタンド併設の「Grill 66」というファストフード店のみであったことに失望したからだと荒木は語る。
作品は、店内の全25品を店名の由来でもあるアメリカ国道66号線の地名に見立て、一品ずつ食べていく様子を撮影する「移動しないロードムービー」だ。仲間や現地で知り合った人々との協働、そして苦悶の表情を浮かべながらファストフードを食していく彼らの表情が何よりのスパイスになっているのではないだろうか。
地下1階では、アーティストの実践を作品化したインスタレーションや表現を紹介している。
同映像祭のテーマともなった土屋信子の「月へ行く30の方法」は、土屋自身が継続的に発表しているインスタレーションのタイトルでもある。土屋の直感によって生み出される彫刻の一つひとつは、どこか生命を宿しているように儚げで、詩的な存在感を放っている。ほかにも実験的な取り組みが紹介されているため、じっくりと観察してみてほしい。
また、美術館内には「縁試し」といったおみくじのようなものが設置されており、おすすめの作品を3つほど紹介してくれるユニークな仕掛けも。この「縁試し」による作品との出会い方も、ある種の一回性の体験と言えるのかもしれない。
ほかにも、「シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT]」との連携プロジェクトとして紹介される特別プログラムも恵比寿ガーデンプレイスの中心に位置するセンター広場で上映されているため、こちらもあわせてチェックしてみてほしい。