鳥取県立美術館が竣工。“ほぼ最後”の県立美術館、25年春開館
日本でもっとも人口が少ない県である鳥取県。同県にある鳥取県立博物館の美術分野が独立し、新たに「鳥取県立美術館」が2025年春に開館。その建物が公開された。
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人口減少のフェーズに入っている日本。そのなかでも人口53万人(令和6年3月1日時点)と日本最小の県である鳥取県に2025年3月30日、新たな県立美術館「鳥取県立美術館」が開館する(館長:尾﨑信一郎)。
同館は1972年開館の鳥取県立博物館から美術分野を独立させるプロジェクト。県博は自然、歴史・民俗、美術の3ジャンルを有するミュージアムとして運営されてきたが、開館から40年以上を経て施設の老朽化は避けられない状況となった。また多くの美術館同様、収蔵庫のスペース不足などの問題もあり、2017年に「鳥取県立美術館整備基本構想」がまとめられ、開館に向けて着々と準備が進められてきた。民間の資金や経営能力を活用する「PFI方式」を採用しており、県と10社からなる鳥取県立美術館パートナーズ株式会社(SPC)が一体となり運営する。
日本各地にある都道府県立美術館のなかでもほぼ最後(*)となる県立美術館の建物が竣工し、報道陣に公開された。
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同館の設計は槇総合計画事務所と竹中工務店のジョイントベンチャーによるもの。位置するのは、鳥取県中央部にある城下町・倉吉市だ。市立図書館が入る倉吉パークスクエアと山陰初の仏教寺院であり国指定史跡の「大御堂廃寺跡」に隣接する場所に構える。美術館はこの立地ならではの、南側に開かれた建築が大きな特徴となっている。
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建物は地階なしの3階構造。敷地面積は1万7892平米、建築面積は5347平米、延床面積は1万598平米。フロアごとに見ていこう。
1階は倉吉駅周辺地区とのつながりを生み出すエントリープラザと、それを覆う「大屋根」が来館者を迎える。それを抜けると、そのまま吹き抜けのエントランスロビーへと動線がつながる構造となっている。ここでは天井から作品が吊るされる予定だという。
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特筆すべきはロビー先にある、館内の全フロアを縦に貫く巨大な空間「ひろま」だろう。15メートルもの天井高を誇るこのスペースは、展示やワークショップ、コンサートなど多様な用途が見込まれている。ひろまを中心に、展示室やテラスなどへの導線が生み出される、まさに「美術館のコア」となる部分であり、公共性の高い空間だ。
また、「ひろま」の外側に「えんがわ」と称した空間を設けることで、外に広がる大御堂廃寺跡とのシームレスなつながりも実現されている。
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1階にはショップやカフェ、キッズスペース、創作テラス、スタジオ、公募団体などが使用する県民ギャラリー(貸館利用)なども配置。鳥取県立美術館にはアートを通じた学びを支援する「アート・ラーニング・ラボ」が機能として設けられ、こうした施設が活用される予定だ。
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気になる展示室は、特別展示コーナーを含めると7つ。2階には5つのコレクションギャラリー(各180〜200平米)と収蔵庫(1710平米)が、3階には1つの巨大な企画展示室(1000平米)が配置されている。
コレクションギャラリーはすべて、展示される作品に合わせて設計された。1と2は一体利用も可能な部屋となっており、油彩画の展示が中心。ギャラリー3は天高7メートルの採光窓を設置した部屋で、彫刻・工芸などを展示予定だ。ギャラリー4は写真や版画を展示。ギャラリー5は、国宝・重要文化財も展示できるケースを設置しており、中近世絵画や日本画、書などを展示するという。
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館内でもっとも巨大な展示空間である企画展示室は、壁に柱を埋め込むことで柱のない広々とした空間が実現された。複数の可動間仕切を使用することで、県立美術館としての求められる様々なジャンルの展覧会に対応できる。ここにも国宝・重要文化財に対応した展示ケースが設置された。
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3階には「大御堂廃寺跡」を一望できる展望テラスも配置。一部を円錐状のテント屋根にすることで、明るい憩いの場となることが期待される。
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美術館の内部には随所にガラスが配されており、来館者と外の風景とをつなぐ役割を果たす。また天井は鳥取砂丘の風紋や倉吉擦りを思わせるパターンで覆われており、鳥取県産の杉材などを使用。この美術館のアイデンティティを形成するひとつの要素とも言える。
この新たな美術館は、開館記念展「アート・オブ・ザ・リアル 時代を超える美術──若冲からウォーホル、リヒター─へ─」(2025年3月30日〜6月15日)で幕を開け、今後年間4つの企画展を行う。年間来館者数の目標は20万人だ。山陰地方の新たなアート・デスティネーションとなることが期待される。
*──山形や鹿児島などにも県立美術館はないが、とくに鹿児島県では県立美術館建設に向けた市民運動(鹿児島県立美術館設立を考える会)が行われている(一部注釈を訂正しました)