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2024.11.14

永遠なるポップ・アート。フォンダシオン ルイ・ヴィトンでトム・ウェッセルマンの回顧展が開催中

パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで、ポップ・アートの象徴的な存在であるトム・ウェッセルマンに焦点を当てる展覧会「Pop Forever, Tom Wesselmann &…」が開催中。ウェッセルマンを中心に、ポップ・アートがいかに今日も生き続けているかを体感できる展示となっている。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より
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 アメリカのポップ・アートの巨匠であるトム・ウェッセルマンに焦点を当てる展覧会「Pop Forever, Tom Wesselmann &…」が、2025年2月24日までパリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンにて開催されている。

 本展では、1960年代を代表する芸術運動のひとつであるポップ・アートをテーマに、ウェッセルマンの代表作を含む約150点の作品に加え、彼と共通のポップ・アート感覚を共有する異なる世代と国籍の35人のアーティストによる70点の作品が展示。ダダイスムのルーツから現代に至るまで、ポップ・アートの系譜とその進化が描かれている。

 出品作家は、アンディ・ウォーホルジェフ・クーンズ草間彌生KAWSなど、ポップ・アートの歴史を象徴する作家たちのほか、デリック・アダムス、ミカリーン・トーマス、松山智一の3人の作家が本展のために新作も発表しており、つねに変わり続けるポップ・アートの広がりを見渡すことができる。

展示風景より
展示風景より、中央は草間彌生《Self-Obliteration》(1966-74)

「Pop Forever」というタイトルが示すように、本展はポップ・アートの「永遠性」に焦点を当てている。展覧会のキュレーターであるディーター・ブッハートとアンナ・カリーナ・ホーフバウアーは、「本展はたんなるウェッセルマンの回顧展にとどまらず、彼の作品を美術史のなかで再評価し、過去・現在・未来におけるポップアートの意義を探る視点を提供する」と強調している。

 1950年代末に北米とヨーロッパで興隆したポップ・アートは、コミック、広告、映画、セレブリティ、食品、タブロイド紙など、一般大衆に身近なものをモチーフにしており、日常の現実と芸術の境界を曖昧にする試みがなされていた。ウェッセルマンの作品は、アメリカの大衆文化や資本主義社会における現実の再現を試み、アイコニックなイメージと鮮烈な色彩を用いることにより、1960年代のポップ・アートにおいて特異な位置を占めていた。アンディ・ウォーホルやロイ・リキテンスタインらとともに、資本主義の消費社会における現実と人生の意味を問い直す作品を制作したウェッセルマンは、広告や日常の物体を取り入れたコラージュ手法を駆使し、ダダイスム的な多声性と共振する実験的な作品を生み出している。

展示風景より、トム・ウェッセルマン「スティル・ライフ」シリーズ
展示風景より、トム・ウェッセルマン「グレート・アメリカン・ヌード」シリーズ

 とくに注目すべきは、ウェッセルマンが作品に取り入れた「オブジェ・トルヴェ」(見つけられたオブジェ)や、現実の感覚を刺激する要素だ。《グレート・アメリカン・ヌード #44》(1963)には電話の音、《スティル・ライフ#28》(1963)には時計のチクタク音、ファンの音、ラジオ、テレビ画面の動く映像などが組み込まれており、これにより複数の現実が一体となった層状の空間がつくり出されている。

展示風景より、左は《グレート・アメリカン・ヌード #44》(1963)
展示風景より、《スティル・ライフ#28》(1963)
展示風景より

 こうした感覚を超えた現実を作品に取り込む姿勢は、現代のアーティストにも大きな影響を与えている。例えば、KAWSがデジタルインスタレーション《COMPANION(EXPANDED)》で見せたような拡張現実(AR)や仮想現実(VR)の実験はウェッセルマンの作品とも共鳴しており、デジタル技術と物理的なメディアを融合させることで、現実と仮想の境界を曖昧にする。

 また、ウェッセルマンのポップ・アートへのアプローチは、アメリカの日常生活を反映させるだけでなく、「超現実」として新たな色彩と意味をも与える。漢王朝の壺にコカ・コーラのロゴをあしらったアイ・ウェイウェイのようなアーティストたちは、ウェッセルマンの手法を引き継ぎ、日常のオブジェクトを再コンテクスト化することで、文化的・政治的な問題に対するメッセージを発信している。

展示風景より、左は漢王朝の壺にコカ・コーラのロゴをあしらったアイ・ウェイウェイの作品群

 さらに、本展で新作を発表したアダムス、トーマス、松山は、ウェッセルマンが探求した現実、意味、知覚に関するテーマに共鳴し、それぞれの作品のなかで再解釈している。

 アダムスはウェッセルマンの「グレート・アメリカン・ヌード」シリーズに対する対比として「スーパー・ヌード1-4」を発表し、アメリカン・ドリームの脆弱性を浮き彫りにしている。トーマスは、美、人種、ジェンダーの既成概念を解体し、とくに黒人女性に対する人種的ステレオタイプを批判的に見つめている。また、松山はウェッセルマンの知覚への探求をデジタル時代に移行させており、Adobeのプログラム、ベクターグラフィックス、3Dプリントなどを活用することで、知覚と技術の革新の限界を押し広げ、ウェッセルマンのレガシーを引き継いでいる。

展示風景より、デリック・アダムス「スーパー・ヌード」シリーズ
展示風景より、右はミカリーン・トーマス《Tan n' Terrific》(2024)
展示風景より、右は松山智一の作品群

 本展のふたりのキュレーターは、「ウェッセルマンはダダとポップ・アート、現代アートの架け橋的存在だ」とし、「その影響は世代を超えて現代のアーティストにまで広がっており、ポップ・カルチャー、マルチメディア、スケールの革新的な使用を通じて彼のアプローチはいまなお生き続けている」と評している。

 パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンを訪れる機会があれば、ウェッセルマンの作品をはじめ、ポップ・アートの歴史的な流れと現代の文脈を織り交ぜた本展をぜひ楽しんでほしい。

展示風景より
展示風景より
展示風景より