2025.1.11

「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」(パナソニック汐留美術館)開幕レポート。芸術家としてのル・コルビュジエにせまる

パナソニック汐留美術館で、建築家ル・コルビュジエにおける後期の絵画芸術に注目する初の展覧会「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」がスタートした。会期は3月23日まで。  ※本展は、ル・コルビュジエ財団の協力のもと開催される。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」展示風景より
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 東京・汐留のパナソニック汐留美術館で、建築家ル・コルビュジエ(1887〜1965)における後期の絵画芸術に注目する初の展覧会「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」がスタートした。会期は3月23日まで。キュレーターは、ロバート・ヴォイチュツケ(ゲスト・キュレーター、美術史家)、大村理恵子(パナソニック汐留美術館 主任学芸員)。

 近代建築の巨匠 ル・コルビュジエは、ロンシャンの礼拝堂、無限成長博物館構想、チャンディガールの都市計画、ブリュッセル万国博覧会フィリップス館、そして日本においては国立西洋美術館の基本設計を手がけたとして世界中で知られている。いっぽう、その活動の後期においては視覚芸術の分野においても活躍し、建築での考えをベースに絵画や彫刻をつなぐ試みを「諸芸術の綜合」と表現。自身の芸術観全体を示すスローガンとした。

 同展は、コルビュジエの芸術家としての側面や、円熟期ならではの楽観的で遊び心のある表現、そしてハンス・アルプ、フェルナン・レジェ、ワシリー・カンディンスキーといった同時代作家とのつながりについても紹介。会場では、1930年代以降にコルビュジエが手がけた絵画、彫刻、素描、タペストリーなど約90点あまりが全4章立てで構成されている。

 スイスで生まれ、フランスを拠点に活躍したコルビュジエは、1930年代のパリで広がった自然界の原理を創作の着想源とする考えに影響を受け、自身の建築や創作活動に反映していった。第1章となる「浜辺の建築家」では、海岸で見つけた貝殻や流木などに見られる有機的なかたち(コルビュジエいわく、「詩的反応を喚起するオブジェ」)をインスピレーション源としたコルビュジエによるスケッチや絵画、そしてアルプによる彫刻やレジェの油彩画もあわせて展示されている。

「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」展示風景より

 展覧会タイトルにもある通り、1950年代以降の円熟期となったコルビュジエにとって創作における大きなテーマとなったのが「諸芸術の綜合」だ。すなわち、コルビュジエがいままでメインに手がけてきた建築の領域にとどまらず、家具や日用品、タペストリー、壁画など、その周辺要素が互いに相関関係にあることで、人間の全感覚を満たすひとつの「詩的環境」となることを目指した。第2章では、「遊動する壁画」としてのタペストリーや、世界文化遺産でもあるフランスの「ロンシャンの礼拝堂」、コルビュジエの建築をもとに制作された彫刻作品などが紹介されている。

「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」展示風景より

 19世紀の産業革命以来、永続的な進歩への信念を持ち続けたコルビュジエは、晩年になると人間、自然、テクノロジーが調和することを理想とし、自身の活動がその触媒となることを信じていた。その精神は、同時代の画家であったロシア出身のカンディンスキーとのつながりを持つこととなる。第3章「近代のミッション」では、そんなコルビュジエとカンディンスキーの絵画が並べられており、「放射」をテーマとした表現や、音やリズムの抽象的な表現の模索に共通点が見られるようだ。

「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」展示風景より

 また、コルビュジエの建築を撮影し続けたルシアン・エルヴェによる写真作品とカンディンスキーによる版画集『小さな世界』もともに並べられているほか、コルビュジエの永続的進歩の信念と詩的な空想が融合することで誕生した絵画シリーズ「牡牛」も展示。「調和する時代」といった理想を掲げながらも、どこか不穏さを感じさせる表現にも注目したい。

「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」展示風景より
「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」展示風景より

 1958年にブリュッセル万博のフィリップス館を手がけたコルビュジエは、そこで最新テクノロジーを駆使した映像インスタレーション「電子の詩」を発表した。これはコルビュジエが提唱してきた「諸芸術の綜合」を、自身の建築と最新技術のインスタレーションを用いて体現したものであったという。本展では、当時の作品を調査しイメージ再現したものを第4章「やがて全ては海へと至る」にて上映している。

「ル・コルビュジエ―諸芸術の綜合 1930-1965」展示風景より

 ル・コルビュジエといえば、多大な功績を残したその建築ばかりが注目されがちだ。しかし、その領域にとどまらない絵画などの芸術表現を見ることで、人間のすべての感覚を持って体感することができる「諸芸術の綜合」を掲げ、実践していたことがわかる。同氏によるこれらの表現活動を知ることで、また新たな視点からその建築を体験をすることも可能となるだろう。

※本展は、ル・コルビュジエ財団の協力のもと開催される。