2024.10.18

デザインの力で豊かな未来を描く。
Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2024をチェック

東京ミッドタウンで、「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトとしたイベント「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2024」が11月4日まで開催中。「つむぐデザイン-Weaving the Future-」をテーマに様々なコンテンツが展開されている会場をレポートする。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

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  六本木の東京ミッドタウンで、「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2024」が11月4日まで開催されている。

 Tokyo Midtown DESIGN TOUCH とは、「デザインを五感で楽しむ」をコンセプトとしたイベントだ。インテリアやプロダクト、グラフィックに加え、音楽や食など文化を形成するものすべてをデザインととらえ、様々なコンテンツを通じてより豊かな日常生活を提案することを試みている。

 17回目の開催となる今年のテーマは「つむぐデザイン-Weaving the Future-」。テクノロジーやシステムが急速な発展を遂げる現代において、より良い社会をつくり出していくための人々のこころの在り方をデザインの視点から提示するものとなる。

「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2024」キービジュアル。デザインは毎年JAGDA新人賞の受賞者が担当している。今年のビジュアルはグラフィックデザイナー・岡﨑真理子によるもの

来場者と作品が互いにデザインをつむぐ

 さっそく会場を回ってみよう。このイベントのメインエリアとも言える芝生広場とミッドタウン・ガーデンには、建築家2人によるサイトスペシフィックなコンテンツが展開されている。

 ひとつは、建築家のクマタイチによる大型インスタレーション《リレキの丘》だ。最新の木材加工技術によって形成された大中小3つのリングを用いて「木の地形」を生み出している。来場者はこのインスタレーションに登ってみたり、穴をくぐってみたりと、それぞれがこの作品の活用方法を自由に見出すことが可能だ。本作は制作過程が10月17日まで公開されており、18日からは完成品として楽しむことができる仕立てとなっている。

 また、会期中の土日祝にはこの作品の表面に貼ることができる「リレキシール」も配布され、自分がそこにいたという行為の履歴を残すことも可能だ。さらに10月20日には、音楽家・アーティストの蓮沼執太によるライブセッションもこの場所で行われる予定となっているため、あわせてチェックしてみてほしい。

会場風景より、クマタイチ《リレキの丘》(制作過程)。形状については、同じ広場内に常設されているフロリアン・クラールによる彫刻や少し勾配のある広場の地形など、場所との関係性を大きく取り入れている
リレキシール(イメージ)
建築家・クマタイチ インタビュー映像

 もうひとつは、同じく建築家の津川恵理による「都市の抽象化」をテーマとしたインスタレーション《都市の共動態》だ。一見用途がわからないこのオブジェは、ミッドタウン・ガーデンの微地形を3Dスキャンし、それにあわせて足場を設計。その上に水で硬化するコンクリートキャンバスを沿わせて制作されている。

 ゆるやかな形状をしているものの、このコンクリートキャンバスは非常に頑丈で、来場者はこの作品のうえに座ったり寝転んだりと、様々な行動をとることが可能だ。津川は、「突然現れたこのオブジェを前に人々はどのような反応を示すのか。また、それに対しどのような欲望を生み出すのか、というコンセプトにチャレンジした」と語っている。

会場風景より、津川恵理《都市の共動態》

ミッドタウン館内にも様々な作品が登場

 ショップやレストランが並ぶ館内にも多彩な作品の数々が登場。例えば、ミッドタウン内ガレリア 3F IDÉE SHOP / IDÉE CAFÉ PARC前には、デザインオフィス nendoによるソファ《ヤワラカサカ》が設置されている。これは以前、赤坂で開催された「TOKYO CREATIVE SALON 2024」の赤坂サカス広場で披露されたインスタレーション作品がもととなっており、その素材を用いて新たなプロダクトとして生まれ変わらせたものだ。会期中は誰でも自由に座ってくつろぐことが可能となっている。

会場風景より、nendo「ヤワラカサカ」。素材は、赤坂の地に古くから伝わる草木染のひとつである「茜染(あかねぞめ)」が用いられている

 プラザB1 メトロアベニューには、ビジュアルデザインスタジオ WOWによるデータデザインプロジェクト「InForms」が展示されている。円グラフや棒グラフなど、インフォグラフィックを誰もが簡単につくれてしまうようになった昨今。そのいっぽうで、その視覚情報はあまりにも簡素になりすぎていて、そこからそれ以上の情報を想像することは難しく、また心を動かされることも少ない。そのような着眼点から、「情報を鑑賞する」体験を生み出そうというのがこのプロジェクトだ。ディスプレイの情報にはリアリティある質感(インフォテクスチャ)が施されており、情報を得ることにもうひとつの付加価値を生み出している。

会場風景より、WOW「InForms」。会場では一例として、レアメタルに関する課題をインフォテクスチャを用いて情報化している
会場風景より、WOW「InForms」

アワードやDESIGNART TOKYOとの共同企画にも注目

 また、会期中にあわせて実施されている東京ミッドタウンによるコンペティション「TOKYO MIDTOWN AWARD 2024」の受賞作品展にも注目してほしい。このアワードは、“「JAPAN VALUE(新しい日本の価値・感性・才能)」を創造・結集し、世界に発信し続ける街”をコンセプトに掲げており、そのひとつのアクションとして東京ミッドタウンが2008年に設立。才能あるデザイナー・アーティストとの出会いや支援、コラボレーションを目指して、デザインコンペ・アートコンペの2部門から開催されている。

 今年度のデザインコンペのテーマは「とき(時)」。グランプリは福田雄介の《トイ文具》が受賞した。アートコンペは毎年テーマを設けずに募集しており、この東京ミッドタウンという場所性に重きを置いた作品のなかから、さとうくみ子による《一周まわる》がグランプリとして選ばれた。

会場風景より、「TOKYO MIDTOWN AWARD 2024」受賞作品展
会場風景より。本年度のトロフィーはデザインコンペ審査員のひとり、篠原ともえによるもの
会場風景より、福田雄介「トイ文具」
会場風景より、さとうくみ子《一周まわる》

 さらに、都内各所で開催される「DESIGNART TOKYO 2024」(10月18日〜27日)の会場のひとつとして、東京ミッドタウンのガレリア2F Aēsop前、Iucien pellat-finet 付近には、AAAQ / エーキュー、竹下早紀、若田勇輔といった3組のクリエイターによる作品が紹介されている。

 プロダクトデザイナー・プロデューサーの都淳朗とUIデザイナーの太田壮によるクリエイティブ・ユニット AAAQは、光弾性と真空成形を用いた作品を展示。卵のパッケージなど、我々が日常的に使用しているものにも美しい特性や見え方が潜んでいることを教えてくれるような作品群だ。

会場風景より、AAAQ「Visible Stress」 画像提供=AAAQ
会場風景より、AAAQ「Visible Stress」 画像提供=AAAQ

 カラフルな色合いとポップな形状が目を引く竹下早紀の椅子《Eeyo》。着色した木材の一部に熱湯をかけることによって色の変化を生み出すといった、素材の特性を活かしたシリーズ作品だ。

 若田勇輔は、47都道府県の特産物の廃材を活かし、新たなプロダクトに生まれ変わらせるプロジェクト「RE 47 CRAFTS」に挑戦している。地域の特産品はその土地で長くつくられ続けているいっぽうで、その土地においてとくに廃棄されるものでもあるという。地域の廃材を地域の職人とともにアップサイクルさせることで、新たな可能性を生み出そうとしている。

 そして偶然にも、この3組はTOKYO MIDTOWN AWARDの過去の受賞者であるようだ。若手クリエイターらの新たな挑戦を紹介するこちらのプロジェクトも必見と言えるだろう。

会場風景より、竹下早紀「Eeyo」
会場風景より、若田勇輔「RE 47 CRAFTS」。手前は、京都の特産品である九条ねぎの廃材を用いた和紙でつくられた「ねぎうちわ」

 このように、現在東京ミッドタウンには新たなデザインコンテンツやアート作品が各所に点在しており、それらに偶然出会うことができるのが魅力的なポイントだと言える。

 ほかにも、周辺の美術館やギャラリーでも多彩な展覧会イベントが開催されている。暑さも和らいだこの季節、ぜひ散歩をする気持ちでこのイベントを楽しんでみてはいかがだろうか。