EXHIBITIONS

野沢裕「→□←」

東塔堂
2025.03.08 - 04.05
 東塔堂で、2024年に発行された野沢裕のアーティストブック『→□←』にまつわる展覧会が開催されている。

 野沢裕は1983年静岡県生まれ。東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻を卒業し、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻を修了。2014年IED(ヨーロッパ・デザイン学院)マドリード校でMFA(写真)取得。イメージとそれが投影される空間や境界を行き来しながら、複数の時空間と偶然性を呼び込み、主に写真や映像、インスタレーションの形式で作品を発表。近年は絵画を用いた作品制作にも取り組んでいる。

 アーティストブック『→□←』は、発行から遡って10年前、IED在学時に作家が制作した同名書籍『→□←』(2014)に端を発する。街角に並ぶ窓、郊外の石塊、階段を横切る影、空をいく鳥たちの群れ。制作の覚書のように日々撮影した写真から、野沢は知人友人の印刷屋や製本家と10部限りの書籍を制作した。『→□←』(2024)はそれ以降の10年の歳月のなかで得られた写真を用いながら、同じ形式のもと新たな連続性をもって構成した新刊として発表されたものだ。作家と見る人の眼差しや意識の交錯するイメージの小窓、日常に潜む情景や形象からシンクロニシティをつなぎあわせるかのようにそれらは構成されている。

 本展は、同書のなかに登場するイメージとともに野沢の作品を各地の書店で展示するもの。また、『→□←』のイメージと、IEDで当時写真を教えていたスペインの写真家、リカルド・カセスへ宛てた新たな撮り下ろしのスペシャルプリントの販売を行っている。

 2024年10月29日、本書の刊行日にバレンシア州を含むスペイン東部が記録的豪雨に見舞われ、歴史的な大洪水が起こった。カセスのスタジオも水没し、彼のプリントや印刷機、アートブックの蔵書も失われ、修復不可能な甚大な被害を受けた。スペシャルプリントおよび本展の売上の一部は、作家の意向でそのスタジオの復旧のために贈られる。