「ケンポク」でアートに携わるということ。2名限定の「茨城県北地域おこし協力隊」が募集開始
2016年に22の国と地域から85組のアーティストが参加して行われた「KENPOKU ART 2016 茨城県北芸術祭 」。延べ77万人以上(主催者発表)を動員し、新たなアートエリアとしての地位を確立しつつあるこの地域で、「茨城県北地域おこし協力隊」の募集が始まった。この地域滞在型のプログラムの魅力とは?
2016年に初開催され、当初目標の30万人を大幅に上回る77万6000人余り(主催者発表)を動員した「茨城県北芸術祭」。イリヤ&エミリア・カバコフをはじめ、ダニエル・ビュレン、飴屋法水、落合陽一、チームラボなど、国内外のアーティストたちが共演した茨城県北地域で、「茨城県北地域おこし協力隊」の募集が始まっている。
そもそも「地域おこし協力隊」とは、都市部の人材が地域社会の新たな担い手として移住し、様々な活動を行いながら定住・定着を図り、地域活性化を目指す取り組みのこと。2009年度から始まったこの制度は、年々その参加者が増加し、2017年度には全国で4800人余りが隊員として全国で活躍するなど、その制度にいま注目が集まっている。
今回、募集がスタートした「茨城県北地域おこし協力隊」はそのなかのひとつ。茨城県北地域(日立市、常陸太田市、高萩市、北茨城市、常陸大宮市、大子町)に滞在し、企画事業の実施や地域のアート活動の支援、拠点づくり・ネットワークの構築、移住・定住の促進を行う、いわば地域おこしの中心人物だ。これまでも複数のアーティストたちが同地域に赴任し、地域の住民たちとともに様々なプロジェクトを立ち上げてきた。
茨城県北地域は、大きく海側の日立市、高萩市、北茨城市と、山側の常陸太田市、常陸大宮市、大子町とに分けることができる。例えば海側の北茨城市には、かつて岡倉天心や横山大観らが創作の拠点とした五浦海岸や六角堂、茨城県天心記念五浦美術館などがあるほか、日立市には古くから工業都市として栄え、県北地域の拠点都市として発展を遂げてきた歴史がある。いっぽう山側は、1991年にクリストの「アンブレラ・プロジェクト」で世界的に注目を集めた常陸太田市周辺の里山など、アートと結びつけることにより、新たな魅力を放つ資源が数多く存在している。さらに、常陸秋そばや奥久慈しゃも、あんこう鍋など豊かな食文化にも恵まれた地域だ。
この多様な環境を持つ県北地域で、地域おこし協力隊はどのような活動を行ってきたのだろうか。その一例を見てみよう。
大学卒業後、鍛金・金工作家として活動してきた、ともつねみゆきは2015年に「大子町地域おこし協力隊」に着任した。着任以前から同町のクラフトイベントに参加し、現地に魅力を感じていたともつね。「人にすごく魅力を感じたのが協力隊になろうって決めたきっかけですね」。現地の人々とのふれあいが後押しした。着任後、16年6月には袋田の滝を記念したモニュメントのデザイン・制作を担い、同年9月に開催された茨城県北芸術祭では、キュレトリアルアシスタントも務めるなど、協力隊の活動が多方面につながっていった。「あんまり美術関係に熱心ではなくても、『地域おこしの人がやっているから』とか『こんなことをやっているのか!』とご近所の方が来てくれたりします」。人の温かさに触れられることも、協力隊として活動する大きな魅力のひとつのようだ。
2018年から「北茨城市地域おこし協力隊」として活動し、現在も滞在している石渡のりお・ちふみ夫妻は、築150年の古民家を作品としてギャラリーに再生する「古民家改修アートプロジェクト」をスタートさせた。会場が旧有賀邸であること、そして関わる人すべてが「ありがてえ」という気持ちになる家を目指して名付けられた屋号は「ARIGATEE」。ここでは、身の回りにある材料を活かして展覧会を行う「生きるための道具展」などを行ってきた。「インターネット上の情報が『何もない』場所にこそ、楽しむ余地があるのです」と語る石渡。情報過多の都会では決してできない体験がそこにはある。
ただその地域に入り、自分のプロジェクトを行うのではなく、地域住民と手を取り合い、それぞれがそこでしかなしえないプロジェクトを立ち上げていく「茨城県北地域おこし協力隊」。今後もアートを活かしたまちづくりが進み、ますます注目が集まるこの地域で、人生を変えてしまうかもしれない体験をしてみてはいかがだろうか。