2024.9.6

今週末に見たい展覧会ベスト14。カルダー、神護寺、エリザベス・ペイトンに春画まで

今週閉幕する/開幕した展覧会のなかから、とくに注目したいものをピックアップしてお届け。なお、最新情報は各館公式サイトを参照してほしい。

「カルダー:そよぐ、感じる、日本」(麻布台ヒルズ ギャラリー)展示風景より、《Fafnir》(1968)
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もうすぐ閉幕

「神護寺―空海と真言密教のはじまり」(東京国立博物館 平成館)

展示風景より、左から《月光菩薩立像》(平安時代、9世紀)、《薬師如来立像》(平安時代、8〜9世紀)、《日光菩薩立像》(平安時代、9世紀)

 京都市の北西部、高雄に所在する神護寺。その創建1200年を記念した特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」は、東京国立博物館 平成館で9月8日まで。レポート記事はこちら

 神護寺は、紅葉の名所として古くから知られてきた。824年に高雄山寺と神願寺がひとつになり、神護国祚真言寺(神護寺)が誕生。高雄山寺は平安遷都を提案した和気清麻呂の氏寺で、唐で密教を学んだ空海が帰国後、活動の拠点とした寺院だ。

 本展では、空海に直接関わる作品・国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》や、寺外での史上初公開となった、神護寺の前身寺院にまつられていた国宝《薬師如来立像》などが展示。1200年を超える歴史の荒波を乗り越え伝わった、貴重な文化財を会場で堪能してほしい。

会期:2024年7月17日~9月8日 ※会期中、一部作品の展示替えを実施
会場:東京国立博物館 平成館
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:050-5541-8600
開館時間:9:30~17:00(金土〜19:00、ただし8月30日、31日はのぞく) 
料金:一般 2100円 / 大学生 1300円 / 高校生 900円

「カルダー:そよぐ、感じる、日本」(麻布台ヒルズ ギャラリー)

展示風景より

 東京では約35年ぶりとなるアレクサンダー・カルダー(1898〜1976)の個展「カルダー:そよぐ、感じる、日本」は、麻布台ヒルズ ギャラリーで9月6日まで。レポート記事はこちら

 本展は、ニューヨークのカルダー財団理事長でありカルダーの孫でもあるアレクサンダー・S・C・ロウワーのキュレーションによるもの。今年、麻布台ヒルズスペースをオープンするペース・ギャラリーの協力のもと、カルダーの代表作であるモビール、スタビル、スタンディング・モビールから油彩画、ドローイングなど、同財団が所蔵する1930年代から70年代までの作品約100点によって構成されている。

 展覧会は、1968年のカルダーの晩年の作品から始まり、初期作品に入り、そして晩年(1973年)の作品で終わるようにようにデザインされている。なかでも、1925年のドローイング群や1931年に展示されて以来一度も公開されたことがなかったという貴重な作品が紹介されている。ぜひ会場にて確かめてほしい。

会期:2024年5月30日〜9月6日
会場:麻布台ヒルズ ギャラリー
住所:東京都港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階 
開館時間:10:00〜18:00(金土祝前日〜19:00) ※最終入館は閉館の30分前まで
料金:一般 1500円(1300円) / 専門・大学生 1200円(1,000円) / 高校生 1000円(800円)
※()内はウェブからの事前予約料金

「ポケモン×工芸展 ─美とわざの大発見─」(MOA美術館)

国立工芸館(金沢)で開催時の展示風景より

 「ポケモン×工芸展 ─美とわざの大発見─」が、静岡・熱海のMOA美術館で9月9日まで開催されている。

 同展は、「ポケモン」と「工芸」ををかけわせるという「かがく反応」を楽しめる企画展。人間国宝を含む20名の作家がポケモンというモチーフに挑み誕生した約70体の「工芸ポケモン」が展示される。作品はすべて本展のためにつくられた新作だ。

 参加作家は池田晃将、池本一三、今井完眞、植葉香澄、桂盛仁、桑田卓郎、小宮康義、城間栄市、須藤玲子、田口義明、田中信行、坪島悠貴、新實広記、林茂樹、葉山有樹、福田亨、桝本佳子、水橋さおり、満田晴穂、吉田泰一郎。なお、本展は麻布台ヒルズギャラリーに巡回する

会期:2024年7月6日~9月9日
会場:MOA美術館
住所:静岡県熱海市桃山町26-2
電話:0557-84-2511(代表)
開館時間09:30~16:30 ※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般 1760円 / 高校・大学生 1100円 / 65歳以上 1540円 / 中学生以下 無料

特別展「PROJECT UMINOUE 五十嵐靖晃 海風」

展示風景より、五十嵐靖晃《そらあみ》(2024) 撮影=みさこみさこ

 千葉県立美術館が開館50周年を記念して開催中の、千葉県出身のアーティスト・五十嵐靖晃による回遊型美術展覧会「海風」は9月8日まで。

 五十嵐は1978年千葉県生まれ。人々との協働を通じてその土地の暮らしと自然とを美しく接続させ、景色をつくり変えるような表現活動を展開。その作品は、自然と人間の関わりをアートとして表現し、多様な人々をつなげるものだ。2005年にヨットで日本からミクロネシアまで約4000キロメートルを航海した経験をもとに「海からの視座」を活動の基盤としている。

 本展では、美術館の建築空間を活かした新作インスタレーションや収蔵作品とのコラボレーション、五十嵐の活動のドキュメント展示など多岐にわたる展示が展開。また、千葉みなとエリアをフィールドに屋外展示を行い、この土地の魅力を明らかにし、かつての海の上である埋立地に新たな文化を創造することを試みている。

会期:2024年7月13日〜9月8日
会場:千葉県立美術館ほか
住所:千葉県千葉市中央区中央港1-10-1
電話番号:043-242-8311
開館時間:9:00〜16:30(金土及び休前日は〜19:30) ※入場は閉館30分前まで
料金:一般1000円 / 高校・大学生500円
※屋外展示の観覧は無料
※中学生以下、65歳以上、障害者手帳等をお持ちの方とその介護者1人無料

「日本のまんなかでアートをさけんでみる」(原美術館ARC)

佐藤時啓 光―呼吸 Harabi#2 2020 150 × 197 cm ピグメンプリント © Tokihiro Sato

 原美術館ARCでは、毎年、同館から発信する意味や意義を考慮したテーマの展覧会を開催している。2024年春夏季は、「日本のまんなかでアートをさけんでみる」と題し、おもに同館コレクションと原六郎コレクションから厳選した作品が展示されている。

 群馬県渋川市、「日本のまんなか」と称される街に原美術館ARCは位置する。古くから三国街道の宿場町として栄え、伊香保の名湯を有し、赤城や榛名の山々をのぞむ渋川市は、「日本の主要四島で最北端の北海道宗谷岬と最南端の鹿児島県佐多岬を円で結んだ中心に位置する」ことから「日本のまんなか」とされ、夏にはユニークな「へそ祭り」が開催されるなど独自の文化を育む街である。しかし、「日本の中心」、「真ん中」と称される街はほかにもある。つまり、物事をとらえる角度や尺度を変えれば、中心はその位置を様々に変化させることができる。

 本展では、原美術館とハラ ミュージアム アークをモチーフに制作された佐藤時啓「光-呼吸」全12作品を展示。これらはすべて、原美術館最後の展覧会「光-呼吸 時をすくう5人」展出品作だ。また、陽光のきらめきや雲の造形、草木の香りや鳥のさえずりなど、豊かな自然とその移ろいとともにある、時間芸術のような原美術館ARCでのアート体験を展開。会場では、アーティストとの交流と信頼関係を礎に収蔵された作品の数々を展覧している。

会期:2024年3月16日~9月8日
会場:原美術館ARC
住所:群馬県渋川市金井 2855-1
電話:0279-24-6585
開館時間:9:30~16:30※入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般 1800円 / 70歳以上 1500円 / 大学・高校生 1000円 / 中学・小学生 800円

「尾角典子 #拡散」(十和田市現代美術館 サテライト会場 「space」)

 ロンドンと京都を拠点に活動するアーティスト・尾角典子は、世界を構成する法則や超越的な力に関心を持ち、哲学、宗教学、量子力学、情報熱力学などの理論体系に、神話、伝説、オカルトといった民間伝承の物語や思想を織り交ぜ、コラージュ、アニメーション、VRやAIといった現代のテクノロジーを複合的に用いて制作している作家だ。

 9月8日までの本展では、人型にくり抜かれたパネル、マイク、2台のモニターとそれに接続された画像生成AIなどを用いたインスタレーションが展示される。鑑賞者は、自分の名前をマイクでAIにインプットすることで、モニターに表示されている「space」を変化させることができ、その結果をインスタグラムで拡散することを促される。この作品は、小説家ウィリアム・バロウズの「Language is a virus from outer space(言語は外部から来たウイルス)」という一節に着想を得て制作された。

 ウイルスの生態に着目し、人間に影響を与える言語やデジタル情報技術との類似性を見出すことで、尾角の得意とする領域横断的な視点を提示している。

会期:2024年7月6日~9月8日
会場:十和田市現代美術館 サテライト会場 「space」
住所:青森県十和田市西三番町18-20
電話:0176-20-1127
開館時間10:00~17:00

未来のかけら: 科学とデザインの実験室」(21_21 DESIGN SIGHT)

展示風景より、稲見自在化身体プロジェクト+遠藤麻衣子によるプロジェクト

 東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで企画展「未来のかけら: 科学とデザインの実験室」は9月8日まで。会場のレポートはこちら

 本展では、展覧会ディレクターの山中俊治が大学の研究室で様々な人々と協働し生み出してきたプロトタイプやロボット、その原点である山中のスケッチを紹介するとともに、専門領域が異なる7組のデザイナーやクリエイター、科学者、技術者らのコラボレーションによる多彩な作品を展示されている。

 最先端技術や研究における先駆的な眼差しとデザインが出会うことで芽生えた「未来のかけら」を通じて、不確かな未来に対する可能性やデザインの楽しさに向きあうきっかけが創出されている展覧会だ。

会期:2024年3月29日〜9月8日
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
電話番号:03-3475-2121 
開館時間:10:00〜19:00 ※入館は18:30まで
料金:一般 1400円 / 大学生 800円 / 高校生 500 円 / 中学生以下無料

今週開幕

エリザベス・ペイトン:daystar 白露

 米国出身の画家で、現在はニューヨークとパリを拠点に活動しているエリザベス・ペイトンの新作個展「エリザベス・ペイトン:daystar 白露」が、京都の両足院で開催される。会期は9月8日〜24日。

 ペイトンは1965年に生まれ。1987年にニューヨークのアルシア・ヴィアフォラ・ギャラリーで初個展を開催し、その後も独自の展示場所で次々と個展を開催している。2008年にはニューヨークのニュー・ミュージアムでミッドキャリア・レトロスペクティブ「Live Forever: Elizabeth Peyton」を開催し、19年から昨年まではロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーや北京のユーレンス現代美術センター、ロンドンのデイヴィッド・ツヴィルナーなどで個展を開催してきた。

 本展は、2017年に原美術館で開催された「エリザベス・ペイトン life 静/生」展以来、ペイトンにとって日本では約7年ぶりの個展だ。会場である両足院は、臨済宗⻩龍派を受け継ぐ龍山徳見禅師によって開山された臨済宗の寺院。昨年に公益財団法人現代芸術振興財団の主催によるハロルド・アンカートの個展「Bird Time」をはじめ、近年はサイトスペシフィックな現代美術の展覧会が数多く開催されている。

会期:2024年9月8日〜24日
会場:両足院
住所:京都府京都市東山区小松町591
開館時間:13:00〜17:00 ※最終入場は16:30まで
料金:拝観料 1000円

「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」(銀座メゾンエルメス フォーラム)

内藤礼 無題 2024 花、水、ガラス瓶 撮影=畠山直哉

 東京・銀座の銀座メゾンエルメス フォーラムで、「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」が開催される。会期は9月7日~2025年1月13日。

 内藤礼は1961年広島県生まれ。現在は東京を拠点に活動している。空気、水、重力といった自然がもたらす事象を通して「地上の生の光景」を見出す空間作品を生み出してきた。近年の大型個展としては、「明るい地上には あなたの姿が見える」(水戸芸術館現代美術ギャラリー、2018年)「うつしあう創造」(金沢21世紀美術館、2020年)、「breath」(ミュンヘン州立版画素描館、2023年)などがある。また《このことを》(家プロジェクト きんざ、ベネッセアートサイト直島)、《母型》(豊島美術館)が恒久設置作品として知られる。

 本展は、現在東京国立博物館で開催中の同名の展覧会(〜9月23日)と一連の流れを持って構想されたもの。会期を一部重ねあわせながら、ひとつの大きな円環を描くというかたちで展開されるという。

会期:2024年9月7日~2025年1月13日
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム 8・9階
住所:東京都中央区銀座5-4-1
電話番号:03-3569-3300 
開館時間:12:00〜19:00 ※入場は18:30まで ※開館時間が通常と異なるのでご注意ください。
休館日:水 
料金:無料

広島竹原芸術祭2024

竹原市重要文化財 旧森川家住宅 提供=竹原市教育委員会

 広島・竹原市で歴史的建造物を舞台とした芸術祭「広島竹原芸術祭2024」が開催される。会期は9月14日〜10月6日。

 瀬戸内海に面した広島県竹原市は、平安時代に京都下鴨神社の荘園として栄えた。江戸時代には製塩業が盛んになり「浜旦那」と呼ばれた商人たちが文化や芸術、学問を支えてきた。同市のシンボルともいえる町並み保存地区には、江戸から昭和初期までに建てられた歴史的建造物が残され、町の歴史を今日に伝えている。

 広島竹原芸術祭は、これらの貴重な建造物とアートのコラボレーションを通じて非日常的空間を創出するアートイベント。4回目の開催となる今回は、テーマを「記憶の地層」として、家の歴史に向き合いながら、作品を通して様々な記憶を表出させるアーティストを集める。参加アーティストは安達響、岩崎貴宏、島村凜、竹村京、ちぇんしげ、百崎楓丘。キュレーターは東京藝術大学准教授の荒木夏実が務める。

会期:9月14日〜10月6日
会場:広島県竹原市各所
開館時間:10:00~16:00
休館日:会期中無休
料金:一部有料(旧森川家住宅 400円、旧松阪家住宅 300円)

「黄土水とその時代―台湾初の洋風彫刻家と20世紀初頭の東京美術学校」(東京藝術大学大学美術館)

 東京藝術大学大学美術館で「黄土水とその時代―台湾初の洋風彫刻家と20世紀初頭の東京美術学校」が開催される。

 台湾出身者初の東京美術学校留学生として知られる彫刻家・黄土水(1895〜1930)。本国では2023年に代表作《甘露水》(1919)が国宝に指定された。本展では、国立台湾美術館からこの《甘露水》を含む黄土水の作品10点と資料類を展示するとともに、藝大コレクションより黄が美校で学んでいた大正から昭和初期の時期を中心とした洋画や彫刻の作品48点をあわせて紹介する。

 日本の伝統的感性と近代美術との融合をめざした黄土水の師・高村光雲とその息子光太郎、《甘露水》にも通じる静かな情念をたたえた荻原守衛や北村西望の人物像、あるいは藤島武二、小絲源太郎らが手がけた20世紀初頭の都市生活をモチーフとした絵画、台湾出身の東京美術学校卒業生の自画像作品など、バラエティに富んだ作品群を展示する。

会期:2024年9月6日~10月20日
会場:東京藝術大学大学美術館住所東京都台東区上野公園12-8
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(ただし、9月16日、9月23日、10月14日は開館)、9月17日、9月24日、10月15日
観覧料:一般 900円 / 大学生 450円 / 高校生および18歳以下、障がい者手帳をお持ちの方とその介護者1名 無料

特別展 心象工芸展(国立工芸館)

 石川・金沢の国立工芸館で、特別展「心象工芸展」が開催される。工芸は素材に対する深い理解とそれに伴う技術で表現されているので「何が表現されているのか」といったことよりも「どのようにこの作品が制作されているのか」といった点に注目が集まりやすい。しかし実際には多くの工芸家が自身の心象や社会とのかかわりといったモチーフにも重点を置いて制作している。

 本展では、現代の表現を提示する6名の作家の作品を展示。刺繍の沖潤子は生命の痕跡を刻み込む作業として布に針目を重ねた作品を、ガラスの佐々木類は土地と自然の記憶を留める作品を、鋳金の髙橋賢悟は現代における「死生観」と「再生」をテーマにした作品を制作している。

 また、彫金の人間国宝である中川衛は世界各国の風景を抽象模様化した作品を、漆芸の中田真裕は心奪われた一瞬の光景を共有するための作品を、陶芸の松永圭太は自身の原風景と時間を留める地層を重ねモチーフにして作品を制作。本展覧会では、工芸家それぞれの技術だけでなく、いまを生きる作家の心の表現に注目する。

会期:2024年9月6日~12月1日
会場:国立工芸館
住所:石川県金沢市出羽町3-2
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9:30~17:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(ただし、9月16日、9月23日、10月14日、11月4日は開館)、9月17日、9月24日、10月15日、11月5日
観覧料:一般 1000円 / 大学生 800円 / 高校生 500円 / 中学生以下、障害者手帳をお持ちの方と付添者1名 無料

「美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-」(細見美術館)

喜多川歌麿 夏夜のたのしみ(部分) 個人蔵 通期展示

 京都の細見美術館で「美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-」が開催される。春画は、一般に、人間の性愛を描いた絵画の総称で、男女の姿がおおらかに、ときにユーモアをもって描かれている。江戸時代には「笑い絵」とも呼ばれ、浮世絵の普及とともに、大名から庶民まで貴賤を問わず、男女対等に楽しまれた。また、春画は縁起物でもあり、嫁入り道具として母から娘や嫁に受け継がれていた。

 しかし、明治時代以降、西洋的倫理観の流入にともない、春画はタブーとみなされ、秘すべきものとされるようになるも、2013~14年、ロンドンの大英博物館で「春画 日本美術の性とたのしみ(Shunga sex and pleasure in Japanese art)」が開催され、春画の高い芸術性とユーモラスな発想が海外で高く評価される。そして、2015~16年には、日本では初めてとなる本格的な「春画」展が永青文庫(東京・目白)と細見美術館(京都・岡崎)で開催され、大きな注目を集めた。これを契機に春画をめぐる環境は大きく変化し、多くの一般の方々の関心が高まり、浮世絵研究においても春画は特殊なジャンルではなく、絵師の作画活動のひとつとしてとらえられるようになった。

 本展では、版画・版本の作品に加え、とくに「肉筆春画」に焦点をあて、書籍などに掲載され、存在は知られながらも、美術館での展示が叶わなかった作品を紹介。日本の美術館では初公開となる葛飾北斎の幻の名品「肉筆浪千鳥」や、喜多川歌麿の大作、さらには海外から里帰りを果たした作品を含む、精選された美麗な春画 約70件を展示する。

会期[前期]:2024年9月7日~10月14日、[後期]2024年10月16日~11月24日
会場:細見美術館
住所:京都府京都市左京区岡崎最勝寺町6-3
電話:075-752-5555
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(祝日の場合は翌火)
観覧料:2200円(18歳未満は入場禁止)

「Nerhol 水平線を捲る」(千葉市美術館)

 千葉市美術館で、企画展「Nerhol 水平線を捲る」が開催される。Nerhol(ネルホル)は、田中義久(1980〜)と飯田竜太(1981〜)により2007年に結成されたアーティストデュオ。ふたりの対話を契機に、人や植物など「移動」にまつわる様々な事象のリサーチを通じ、他者に開かれてきた長年におよぶ表現活動の歩みを、美術館で初となる大規模な個展によって紹介する。

 Nerholの活動は、グラフィックデザインを基軸とした田中と、彫刻家である飯田の協働性を特徴としている。人物の連続写真をかさねて彫る初期のポートレートから、帰化植物や珪化木、アーカイブ映像まで対象を広げ、独自の世界観を深化し続けてきた。写真と彫刻、自然と人間社会、見えるものと見えないものといった複数の境界 / 間を、日々の会話のように行き来して紡がれてきた作品は、多様な解釈へと誘う。

 本展では、これまでの活動における重要作や未発表作に加え、千葉市の歴史や土地と関わりの深い蓮をテーマとした最新作、さらにはふたりが選ぶ美術館のコレクションを展示し、この場所だけでしか体験できない空間を創出する。人間の知覚や現代社会における一義的な認識ではとらえることができない、Nerholによる時間と空間の多層的な探究は、千葉の地で豊かな展開を見せることだろう。

会期:2024年9月6日~11月4日
会場:千葉市美術館
住所:千葉県千葉市中央区中央3-10-8
電話:043-221-2311
開館時間:10:00~18:00(金土~20:00)
休館日:9月9日、9月24日、10月7日、10月21日 ※第1月曜日は全館休館
観覧料:一般 1200円 / 大学生 700円 / 小学・中学・高校生 無料