1万点の作品を“破壊”。ダミアン・ハーストが挑むNFTとアートの新たな試みとは?
ダミアン・ハーストが構想した7年越しのプロジェクト、「The Currency」。NFTと紙のペインティング、あわせて1万点の破壊を計画し、アート界の常識を再び覆すというものだ。ロンドンのニューポート・ストリート・ギャラリーで行われている歴史的モーメントに注目する。
ダミアン・ハーストは、テクノロジーを駆使してアートの可能性を探るHENI社とコラボレーションし、自身初となるNFTコレクションを発表した。通貨を意味する「The Currency」と名付けられたプロジェクトでは、1万点にもおよぶペインティングを制作し、そのすべてをNFT化。2021年7月に1点2000ドル(当時のレートで約22万円)で出品され、1万点のNFTがコレクターの元へと渡った。
その後、作品をNFTとして保持するか、もしくはフィジカルなペインティングにへと交換するかを選択できる権利を1年間コレクターに付与。NFTを交換しなかった場合には実質のアートワークは破棄される。逆に実質のアートワークへと交換した場合にはNFTが処分され、どちらも所有することは不可能というわけだ。
選択期限は今年7月。それから約2ヶ月が経過したいま、交換されずに残ったアートワークがロンドンのニューポート・ストリート・ギャラリーに並んだ。ギャラリーには焼却スペースが設置され、展示期間中、毎日決まった時間に来訪者の目の前で、作品が燃やされていく。さらに10月のフリーズ・ウィーク期間中には、ダミアン・ハースト自身がギャラリーで大規模な焼却イベントを行う予定だ。
この前例のない実験的な「The Currency」プロジェクトの試みは2015年に遡る。当時、ハーストはどのように通貨が製造され、通貨して使用されるために信頼性を得ているのか、疑問を抱くようになった。紙幣と銅版画、また硬貨と彫刻を比較していくなかで、もし十分な数のペインティングを制作すればハンドメイドの通貨として機能するのではないか、という考えに至ったという。そして、アートと通貨の境界線をハーストはこう考える。「アートが通貨になるとき、通貨がアートになる。政府が硬貨や紙幣にアートを使用するのは偶然ではありません。私たちがお金というものを信じることができるようにするためです。芸術がなければ、私たちは何も信じることができません」(プレスリリースより抜粋)。