約100タイトルで振り返る
藤田嗣治の「本のしごと」
今年没後50年を迎え、東京と京都で過去最大規模の回顧展も予定されている藤田嗣治。その藤田が手がけた本の挿絵にフォーカスした展覧会「藤田嗣治 本のしごと ―文字を装う絵の世界―」が4月14日から6月10日まで、目黒区美術館で開催される。
独特の乳白色によって描かれた裸婦像や少女たちの絵に代表されるエコール・ド・パリの画家・藤田嗣治(1886〜1968)。その藤田が絵画だけでなく、本の挿絵も積極的に制作してきたことはご存知だろうか。
目黒区美術館で4月14日から開催の「藤田嗣治 本のしごと―文字を装う絵の世界―」では、そんな藤田の挿絵にフォーカス。戦前のフランスで発行された本の挿絵から、1930年〜40年代の日本での出版に関わる仕事、50年にフランスに移住した後の大型豪華本の挿絵など、約100タイトルで藤田の「本のしごと」を振り返る。
展覧会は序章「絵と言葉への前奏曲」を加えた「パリでの出版」「日本での本に関わる仕事と様々な制作」「戦後フランスでの出版」の3章構成。
展示は藤田が親友・澤鋻治(けんじ)に送った絵葉書と、妻・とみに宛てた絵手紙からスタートし、藤田にとって最初の挿絵仕事となった『詩数篇』(小牧近江著、1919)をはじめ、エディション番号が付いた限定本に描かれた挿絵の数々を紹介。銅版画や油彩画、鉛筆画などの作品も交えながら、ギョーム・アポリネールやポール・ヴァレリーといった作家たちとの仕事を見ることができる。
また日本で藤田が手がけた挿絵については、1929年に帰国した藤田が日本で初めて装丁を手がけた自著『巴里の横顔』(1929)や『腕一本』(1936)、あるいは藤田が表紙を描いた1930年代の『文藝春秋』『婦人之友』といった貴重な書籍・雑誌を展示。
藤田が戦争画を描いていたことは広く知られているが、ここでは軍からの要請によって表紙を描いた『バルシヤガル草原』(高島正雄著、1942)をはじめとする戦争関連の書籍を目にすることができる。
東京国立近代美術館所蔵の挿絵、挿絵本が数多く出品されている本展。これは、藤田が戦時中にパリを引き払った際に手放した自身の挿絵本を、50年代になって再び自身で買い戻したもの。この行動から、藤田がいかに挿絵という仕事に対して強い想いを抱いていたかがわかるだろう。没後50年の節目に、藤田が情熱を傾けた「本のしごと」に改めて注目したい。