金沢21世紀美術館のコレクションから見えてくる、「うつわ」の多様性
金沢21世紀美術館が同館新収蔵品を含むコレクション作品を中心に、現代美術における「うつわ」を多角的な視点で紹介する展覧会「コレクション展Ⅰ うつわ」を開催中だ。
ものを入れる道具、あるいは人の度量の大きさ、肉体などを意味する「うつわ」。様々な意味が宿る「うつわ」の概念を、現代美術の視点で提示する展覧会「コレクション展Ⅰ うつわ」が金沢21世紀美術館で開催されている。会期は10月16日まで。
本展は、目に見えるものから見えないものまで、様々なものを内包あるいは媒介する「うつわ」の機能や概念の多様性に着目したもの。同館で「うつわ」をテーマにしたコレクション展はこれが初めてとなる。
担当学芸員の立松由美子は、「うつわとは『魂が宿るうつわ』など、非常に身体的な意味を持つとともに、日常的で身近な存在でもある。本展では、サステナブルを再考する意味で、古来から培われてきた素材や技法を駆使して作品をつくる作家たちに注目した」と語る。出品作家は青木千絵、葉山有樹、アニッシュ・カプーア、久野彩子、イ・ブル、見附正康、中村卓夫、中島晴美、中田真裕、奈良祐希、ピナリー・サンピタク、佐藤卓、田嶋悦子、富本憲吉、マイケル・ロウほか。なかでも注目したいのは、新収蔵の作家たちだ。
地元・金沢市で350余年の歴史を誇る大樋焼の家系に生まれた奈良祐希は、東京藝術大学と大学院で建築を学び、若手建築家としても活躍する建築空間も設計できる陶芸家。3D CADやプログラミングを駆使して設計した陶芸作品で近年国内外で大きな注目を集める存在だ。高校時代、まだ建設中だった金沢21世紀美術館の前が通学路だったという奈良は今回、新収蔵作品2点を含む15点の作品で、「Frozen Flowers」と名付けられたインスタレーションを構成した。
金沢21世紀美術館の全面ガラスの展示室という建築の「透明性」をフィロソフィーに、特注のアクリル展示台に作品を建築的に配置。生命感と躍動感ある「Bone Flower」シリーズが、光あふれる空間で連関を持ちながら光合成しているかのように展示を成り立たせている。作品形態はそれぞれの配置された場所の周辺環境を読み込むことでデザインされている。まさに建築と作品を巧みに融合させた展示だと言えるだろう。昼夜でまったく異なる風景を見せる点にも注目だ。
金沢に移住し4年目だという中田真裕は、北陸で見られる蜃気楼をイメージした作品《mirage》を見せる。自身が焦がれているが未だ見ぬ景色を強く想いながら、日々の制作に取り組んでいるという中田が駆使するのは、「蒟醤(きんま)」というミャンマーやタイを起源にし、室町時代に日本に伝来した技法。漆面を掘り、色漆を埋め、研ぎ出すという工程を経ることで、複雑な色合いが表面に現れてくるというものだ。
膨大な時間をかけ、作品を抱きかかえながら仕上げていく中田。その身体性が作品にどのように反映されているのか、じっくりと見つめたい。
人間存在をテーマに、等身大の人間の身体と抽象形態が融合した乾漆の作品を制作している青木千絵。2004年からスタートさせた「BODY」シリーズで知られており、その初期では、漆黒の被膜が堅牢な表面となって「他者からの遮断」が意識されていた。しかしながら近年では、「融体化する身体」を主題にしており、漆の鏡面のような質感に鑑賞者が映り込み、鑑賞者を含む周囲の環境と作品が溶け合うような新境地に挑んでいる。
本展で展示されている《BODY21-2》は、小さく丸まった身体がまるで胎児にようにも見える。「漆の艶かしいツヤ、神秘性に惹かれる」という青木。360度、様々な角度から作品を鑑賞し、作品と自分との関係性を築いてほしい。
なお本展では、展示室ごとに複数の作家を組み合わせることで、様々な連想を提示するものとなっている。多種多様な「うつわ」から何を見出すかは、鑑賞者次第だ。