地中図書館から草間彌生、Chim↑Pom from Smappa!Group、増田セバスチャンの作品まで。木更津の「KURKKU FIELDS」でアートと文化に親しむ
千葉・木更津にある農、食、アート、自然などを楽しむことができる施設「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」。本施設に展示されているアート作品や、今年2月にオープンした「地中図書館」を紹介する。
千葉・木更津の農、食、アート、自然などを楽しむことができる施設「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」。「Reborn-Art Festival」の実行委員長/制作委員長としても知られる音楽家・小林武史がプロデュースを手がけ、広さ約30ヘクタールの土地には野菜やハーブの畑、酪農場、養鶏場、チーズ工場、宿泊施設、レストラン、カフェ、パン工房、児童向けの遊具などを擁する。
場内は排水やゴミ、排泄物を循環させるエコシステムが備えられており、設置当初からサステナビリティを念頭に置いて設計されていることも特徴の施設だ。場内には屋外展示のアート作品が設置され、2月には特徴的な建築の「地中図書館」も設置された。これらの概要をレポートでお伝えしたい。
地中図書館
今年2月にKURKKU FIELDSの入口附近にオープンした地中図書館は、建設残土で埋め立てられた谷筋の裂け目にある洞窟のような空間につくられた、特徴的な建築だ。設計したのはNAP建築設計事務所の中村拓志で、「晴れた日には畑を耕し、雨の日には読書をする」という晴耕雨読な生き方を志向する人々のために構想された。
谷筋を進んでいくと、半円状につくられたガラス張りの建物が現れ、天井までの本棚が来場者を迎える。梁や柱といった建築的な要素は極力排除されており、土地の傾斜に応じて天井高が決まったことから、様々なサイズの小さな隠れ部屋が本棚のあいだにつくられ、思い思いの場所で読書に没頭できる設計だ。
奥には読み聞かせを始めとしたイベントを開催することができるホールを設置。階段状のホールを取り囲むように本棚が設置されており、天井部の開閉式トップライトからは、外光が降り注ぐようになっている。
本図書館の蔵書の選定は選書家・川上洋平を中心に行われた。オープン時は約3000冊が並び(最大収容可能数は約8000冊)、自然や農的な暮らしに関するものを中心に、詩、哲学、歴史、宗教、科学や経済にも独自の広がりやつながりが感じられる選書がされている。
本図書館はKURKKU FIELDSで体験できることのなかでも「知」を司る場所となっている。ここで得た知識を広大なフィールドで子供も大人も実践し、そこで得た疑問を持って再び戻ってくる。そんな「知」の循環ともいえる機能を果たす、重要な施設だ。なお、本施設の利用はメンバー登録と事前予約が必要となる。
屋外設置作品
植物が生い茂るKURKKU FIELDSの傾斜部に、周囲の風景に溶け込むように鏡面の立方体が置かれている。これは、草間彌生の代表的なシリーズ「ミラールーム」としてつくられた作品《無限の鏡の間- 心の中の幻》(2018)だ。
本作の中に入って扉を閉めると、無数に空いたカラフルなガラスの穴から入ってきた外光が、内部の鏡に反射して無限の奥行きをつくりだす様を体験できる。2021年から22年にかけてイギリスのテート・モダンで長期展示され話題を集めた本シリーズだが、屋外に設置されたものは世界でもここだけだという。電気がなくとも、自然光だけで作品が成立しているのは、KURKKU FIELDSのコンセプトとも重なっている。
もうひとつの草間作品《新たなる空間への道標》(2016)は、広大な畑を背景に展示されている。開けた視界の中に現れる、誰もが草間作品とわかる赤と白の水玉の彫刻は、見るものに強いインパクトを与えるはずだ。
木立の中に立つ増田セバスチャンの《ぽっかりあいた穴の秘密》(2019-20)は、外観は目立ったところのない木製の円柱状の作品だが、中に入ると景色は一変する。
内部の壁面には金属的な輝きを持つ球やリボン、ビーズ、楽器といったモチーフがぎっちりと敷き詰められて電飾で彩られ、そこに天井の穴から自然光が注いでいる。さながら内部に装飾を持つクリスマスツリーのようにも見える本作。ぜひ現地で体感してもらいたい。
畑にあるChim↑Pom from Smappa!Groupの《Level 7 feat.明日の神話》は、2011年の東日本大震災後に、渋谷駅にある岡本太郎の壁画《明日の神話》にゲリラ的に取り付けられた、福島第一原発と原爆雲をモチーフとした平面作品を立体化したものだ。
本作を見るうえでは、その設置場所に注目したい。再生可能エネルギーの利用に力を入れるKURKKU FIELDSには、太陽光発電のパネルがいくつも設置されている。パネル前に展示された本作は、エネルギーとその生産リスクにどう向き合うのか、という震災から10年以上を経ていまものこる問いをこの場所から発している。
ほかにも、緑色の人形の立体が目鼻口をはじめ全身から水を出しているファブリス・イベールの意味深長な彫刻《べシーヌの人》(1991/2017)や、なめらかな曲線と人工的な車輪の組み合わせが印象的なカミーユ・アンロのブロンズ作品《デレリッタ》(2016)が屋外設置されており、訪れる人々を楽しませている。
今回の来訪は冬だったが、春が近づくにつれて緑も増え、施設内の景色も変化するため、四季とともに変化する作品を楽しむこともできる。自然の循環を感じながら現代美術作品に触れられる本施設を、ぜひ訪れてもらいたい。