山口晃がアーティゾン美術館の「ジャム・セッション」で問いかける、感覚・見ること・美術館
東京・京橋のアーティゾン美術館で、石橋財団コレクションと現代美術家の共演「ジャム・セッション」の第4弾となる「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」が開幕した。会期は11月19日まで。
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東京・京橋のアーティゾン美術館で、石橋財団コレクションと現代美術家の共演「ジャム・セッション」の第4弾となる展覧会「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン」が開幕した。会期は11月19日まで。担当学芸員は平間理香。
山口晃は1969年東京都生まれ、群馬県育ちの日本画家。細密描写を得意として大画面の作品を手がけるいっぽうで、挿画やポンチ絵など様々な作風の作品を手がけることで広く知られる。
藝大時代に、日本でつくられたアニメーションやマンガ、冗談交じりの文化、子供の頃から親しんできた「お絵かき」に自分のルーツを見出し、油絵が輸入された地点から日本近代美術の流れを追体験する構想を抱き、その後、古美術と大和絵に大きな影響を受け、日本美術を独自に解釈した作風を徐々に確立していった山口。そんな山口が今回のタイトルに掲げたのが、「サンサシオン」(フランス語で「感覚」)だ。
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自身が「セザンヌファンなので」フランス語の「サンサシオン」を使いたかったのだと冗談めいた口調で語る山口(サンサシオンはセザンヌが制作について語るときによく用いた語)。しかしそこには絵描き・山口晃の強い想いも垣間見える。
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「絵描きが目を開いたときにビビッとくる、そんな感情をわざわざタイトルに用いた。昨今の美術館行政や美術を巡る状況が進んでいくほど、作家個人は制度に絡めとられてしまう。サンサシオンを内発し、愚直に続けることがそれに対する防波堤となる」。そのサンサシオンへの扉を開くのが、最初のインスタレーション《汝、経験に依りて過つ》だ。
この作品は、もともと豊島園にあったアトラクションを「もう一度体験したい」という山口の思いもあり実現したものだが、その裏にはこんな想いもあるという。 「最初にぐらっと来てほしい。昨今の美術鑑賞はレジャーのひとつになっており、すっきりしない、不可解な『なんだろう?』という感覚を思い出してほしい」。
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こうした感覚を問いかける作品とともに、本展で大きな要素となるのが「見ること」を問う作品だ。
白い壁と床と照明で構成された「ホワイトキューブ」である《モスキートルーム》は、山口がかつてとあるギャラリーで作品を鑑賞した際に経験した感覚を共有しようとするもの。ただその空感を見るつめることで鑑賞者に「飛蚊症」のような視野を与え、自らの眼球の「丸み」すらも知覚させようとする。私たちが対象をとらえるとき、目の中では何が起こっているのか。そうしたことすらも脳裏をよぎるだろう。
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この《モスキートルーム》の近くには、雪舟の《四季山水図》と山口の新作絵画が並ぶ部屋が設けられている。柔らかな光が《四季山水図》に当たり、絵がその光を含むことで生まれる奥行き。日本画におけるもうひとつのメディウムとしての「光」の存在を知覚したい。
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本展では、展示室内でのスケッチも可能となった。これも見ることと関係すると山口は言う。
「描くことは見ることと同義。いまは美術館で作品を見る時間が本当に短くなっている。だがスケッチする間はずっと絵を見ている。そうすると筆に導かれて作品の解像度が上がる。美術館はそういうことをしていい場だ」。
なお本展では、山口がポール・セザンヌの《サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール》を選び、これを「模写」するかのような新作《セザンヌへの小径》と、その過程も展示されている。会場では、多くの美術館では見られないスケッチの光景が広がることが期待される。
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本展では雪舟やセザンヌのほか、ジャム・セッションの対象として黒田清輝、浅井忠らの作品が並ぶ。「巨匠の領域は心がが洗われる。『やっぱり個人なんだ』という懐かしい感覚になる」と語る山口。「先達が彼らの時代の制度中にあって、己を刺し貫く『感覚』を実現させてきた格闘は、いつも私を励まします」(ステイトメントより)。
なお、本展では会期中、パネルに続々と山口晃によるテキストが追記されていく。
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