東京・八重洲の新たなアートセンター「BUG」で出会う。雨宮庸介による「人生最終作のための公開練習」
東京・八重洲の新たなアートセンター「BUG」で、こけら落としとなる雨宮庸介の個展「雨宮宮雨と以(あめみやきゅうとい)」がスタートした。会期は10月30日まで。
9月20日、東京・八重洲に新たなアートセンターがグランドオープンした。その名も「BUG(バグ)」。同日にはこけら落としとして、作家・雨宮庸介の個展「雨宮宮雨と以」もスタートした。担当キュレーターは、檜山真有。会期は10月30日まで。
雨宮は1975年茨城県生まれ。彫刻や映像インスタレーション、パフォーマンスなど様々な手法で、日常では意識されない普遍的な事象における境界線について再考を促すような作品を制作してきた。2022年までベルリンを拠点としており、現在は日本で活動をしている。リクルートが実施してきた第15回グラフィックアート『ひとつぼ展』(2000)ではグランプリを受賞し、その後の2011年には現公益財団法人江副記念リクルート財団の奨学金でオランダ留学を実現するなど、同社にゆかりある作家のひとりだ。
また、同センターは、株式会社リクルートホールディングスの社会貢献活動の一環として運営されるもの。これまでには、銀座でふたつのギャラリー「クリエイションギャラリーG8(9月2日終了)」や「ガーディアン・ガーデン(8月26日終了)」でその活動を推進してきた。
本展は、自身の人生と表現を並走させて展示を行ってきた雨宮が「人生最終作のための公開練習」と称して行うもの。「彫刻」「身体(作家自身)」「スクリプト(原稿)」の3つが要素となり、影響しあって循環的に見せる構成となっている。
会場では、2001年頃の作品から最新作までがインスタレーションという形式で展示されている。テーブルに再構成されるのは、活動初期から制作されているりんごの彫刻作品シリーズ「apple」をはじめ、Reborn-Art Festival 2021-22で発表された《石巻13分》の記録映像、2014年より開始されたプロジェクト「1300年持ち歩かれた、なんでもない石」などだ。
会期中には、会場に雨宮が常駐し、レクチャーパフォーマンス《For The Swan Song A》(2023)を行う。「スワンソング」とは、最終作や絶筆のことを、白鳥が死に際に鳴くことをなぞって表す言葉だ。雨宮による「人生最終作」のための長い準備の一環を目の当たりにすることができるだろう。
また、本展のための最新作として《原稿彫刻》(2023)も公開。雨宮が《For The Swan Song A》などで紡いできた言葉がレーザーで焼き付けられており、その脆弱で繊細な言葉が永続と象徴をまとう彫刻というメディウムと結び付けられている点に注目してほしい。
本展の開催に際し、雨宮はこう話す。「展覧会タイトルは、作品に含まれる自身を表す『雨宮』と、『Q(きゅう)』『問い(とい)』が含まれており、最小限の操作で作品の骨子を表すようなものとした」。BUGは東京駅が近いことやオフィスビルの1階に位置することもあり、アートを初めて見るという来場者もいるだろう、という編集部からの問いかけに対しては、「知識や文脈を知らないとわからないと思われがちだが、こちらから歩み寄れるようにしたい。素直な意見や感想は大切にしたい」と語ってくれた。さらに、同アートセンター責任者の花形照美は「BUGを通じて、展覧会をつくる様々なアートワーカーの皆さんと協力し、彼らの活躍の機会を拡大・発信して行きたい」と語った。
雨宮が会期中に常駐してレクチャーパフォーマンスを行うのはじつに5年ぶり。さらに、雨宮が不在となる木曜日(10月5日、19日、26日)は「ラッキーデー」と称し、雨宮ではない人物らにレクチャーパフォーマンスが引き継がれるという。参加者はそれぞれ布施琳太郎(アーティスト)、宮坂遼太郎(パーカッション奏者)、捩子ぴじん(ダンサー・振付家)。
路上に面したエリアでは、雨宮の代表作でもある「Apple」シリーズの公開制作も実施されている。ひとつずつ手作業で生み出されていく作品とその制作風景も忘れずにチェックしたい。