2024.10.26

「SENSE ISLAND/LAND |感覚の島と感覚の地 2024」レポート。作品を通じて横須賀の土地に触れる

2019年に横須賀の無人島・猿島でスタートした「Sense Island - 感覚の島 - 暗闇の美術島」がアップデート。横須賀市街地にもエリアを拡げた「SENSE ISLAND/LAND |感覚の島と感覚の地 2024」が12月15日まで開催中となっている。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、チェ・ジョンファ《おいしくなーれ》
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 2019年に横須賀の無人島・猿島でスタートした「Sense Island - 感覚の島 - 暗闇の美術島」。今年からは、横須賀市街地(汐入・横須賀中央、観音崎)にエリアを拡げ「SENSE ISLAND」から「SENSE ISLAND/LAND」にアップデート。夜間に加えて日中も楽しめるアートイベントとして2年ぶりにリニューアルし、開催されている。会期は12月15日まで。総合プロデューサーは齋藤精一、キュレーターは青木彬。

 今年で4回目となる同イベントの新たな幕開けに際し、齋藤と青木は次のように語った。「2019年の初回からコロナを経ていままで3回開催されてきたSense Island。このまま続けていくだけでは同じ形式のままアーティストだけを変えていくことになってしまうと感じ、昨年は横須賀の地をあらためてリサーチする期間とした。同イベントでは18点の作品が島や市街地に点在しているが、その作品と作品をつなぐあいだには横須賀の土地を感じられるポイントも。ぜひ作品とあわせて注目してほしい」(齋藤)。「つい最近まで一生活者として横須賀に住んでいたこともあり、ゲストキュレーターとして参加し横須賀の自然環境やそこから発展した産業を深掘りした。今回は横須賀をリサーチしたアーティストらのミクロな視点による作品が多く集まったが、それらをあわせることで大きな横須賀の姿が見えてくるのではないか」(青木)。

 今回、残念ながら高波の影響でフェリーが欠航し、猿島への取材が叶わなかった。取材ができた市街地エリアに点在する作品をいくつかピックアップして紹介したい。

 観音崎エリアでは、建築家・山本理顕による設計が美しい「横須賀美術館」や、かつて東京湾の専防衛の要塞として利用されてきた「三軒家砲台跡」などが会場となっている。例えば横須賀美術館では、写真家・松原茉莉の《記憶は土にねむる》が展示。特殊なプロセスを経てAI生成したイメージを用いて、自然と人間の営みが築いてきた歴史を作品に落とし込んだ。

 ほかにも同美術館では「運慶展 運慶と三浦一族の信仰」(〜12月22日)や「瑛九―まなざしのその先に―」展(〜11月4日)も同時開催されている。

展示風景より、松原茉莉《記憶は土にねむる》(TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCH)
展示風景より

 三軒家砲台跡で展示を行っているのは、松島宏佑・雪野瞭治・藤本雅司によるクリエイティブチーム ARu。一見作品が見当たらないと感じるかもしれないが、じつは砲台跡にある黒いポールと台のようなものが体験のきっかけとなる。体験者がこのポールや台を経由して周辺環境に触れることで、周りに設置されているライトが大地、動植物、微生物に含まれる水を通じて点灯するという仕組みだ。

展示風景よりARu《Connecting》。この時期水分を保とうとする常緑樹は、触れてもライトが点灯しないという。場所によって点灯の度合いが異なるのもおもしろいポイントだ
展示風景より、ARu《Connecting》

 山本愛子は、横須賀の走水(はしりみず)から観音崎エリアの「水」にまつわる歴史や物語をサイアノタイプを用いて表現した。古事記にも登場するという走水神社や走水水源地、河童伝説などをモチーフに、横須賀の物語が絵巻物のように紡がれている。

展示風景より、山本愛子《Echoes of Water》

 汐入・横須賀中央エリアからは、現存する世界最古の鋼鉄戦艦・世界三大記念艦「三笠」のある「三笠公園」や「三笠ターミナル」に展示されている作品を紹介する。三笠公園の戦艦前にはチェ・ジョンファによる《おいしくなーれ》が展示。横須賀で発生した不要物を集めて、市内に住む人々と協働しオブジェをつくりあげた。そのオブジェは一見見えづらい土地の本来の姿を映し出すようでもある。

展示風景より、チェ・ジョンファ《おいしくなーれ》

 三笠ターミナルの2階では、TOKYO PHOTOGRAPHIC RESEARCHの作家らによるグループ展「ブイを包む」も開催。アーティストそれぞれがリサーチした横須賀の姿が独自の目線でとらえられており、そのミクロな視点が集合することで「横須賀」というマクロな姿を形成している。

展示風景より
展示風景より
展示風景より

 このほかにも市街地や猿島では、碓井ゆい、菊池宏子、キュンチョメ、齋藤精一、SIDE CORE玉山拓郎、水戸部春菜、三原聡一郎、薬王寺太一、山本愛子、asamicro、梅川壱ノ介、オル太、寺尾紗穂、灰野敬二・蓮沼執太らによる作品展示やパフォーマンス、ワークショップも実施されている。

 海の街である横須賀は軍の拠点としても知られる場所。そこに至るまでの歴史やそれ以前の歴史、はたまた現在の横須賀はどのような場所なのか。このイベントを通じてぜひ触れてみてほしい。