アジアでの存在感を高めるクリスティーズ。APAC社長が見た各国アートマーケットの特徴とは?
2024年、アジア太平洋地域本社の拡張を計画しているクリスティーズ。ここ数年、同社の成長を牽引している中国市場や、海外ギャラリーの進出や初回のフリーズ・ソウルの開催により台頭している韓国市場、そしてアジアにおける2番目に大きなチームを擁している日本市場で、それぞれどのようなアプローチをとっているのか? 同社アジア・パシフィック社長のフランシス・ベリンに話を聞いた。
今年上半期、33億ポンド(約5400億円)/41億ドル(約5700億円、いずれも当時の為替レート)の総売上高を達成したクリスティーズ。パンデミックの影響が続いていたにもかかわらず、過去7年間での最高の数字だ。
2024年にアジア太平洋地域の本社を新たな拠点に移転し、ギャラリーやセールスルームなどのスペースを現在の4倍以上拡張することを計画している同社は、アジア市場へのコミットメントをさらに高めている。昨年、香港と上海で行われた、ジャン=ミシェル・バスキアの作品11点を展示する「Radiance: The Basquiat Show」展に続き、今年5月には、フランシス・ベーコンとエイドリアン・ゲニーによる約5億ドル相当の作品16点を展示する「Flesh and Soul: Bacon/Ghenie」展を香港で開催。同展は、今年9月に初めて開催されたフリーズ・ソウルの会期にあわせて、ソウルでの巡回展示も行われた。
アジアでの存在感を高め続けているクリスティーズは、韓国、中国、日本などアジアの主要市場の現状をどのように見ているのだろうか? また、各市場における戦略の違いとは? フリーズ・ソウルの終了後に来日したクリスティーズ・アジア・パシフィック社長のフランシス・ベリンに話を聞いた(インタビューは9月6日に実施された)。
堅調に成長を遂げている韓国市場
──数日前、ソウルでお会いしましたね。まずは今回、韓国を訪れた感想からお聞かせください。
フランシス・ベリン(以下、ベリン) 韓国の美術品市場はこの2~3年で非常に持続的で強固な成長を遂げてきました。市場全体が好調に推移しており、とても安定した市場となっています。また、日本を含めた他国の市場とは異なり、戦後の現代美術やデザインなど特定のカテゴリーにフォーカスしています。
私たちは5月に香港で開催した「Flesh and Soul: Bacon/Ghenie」展をもとに、ソウルでフランシス・ベーコンとエイドリアン・ゲニーによる16作品を紹介する展覧会を行いました。小規模な展覧会でありながら、非常に意義深いものです。世代の異なるふたりの具象作家を隣り合わせにすることで、本当に素晴らしい対話が生まれました。
約5億ドル相当の作品を展示するために莫大な輸送費と保険料を投入しました。その甲斐あってか、多くの方々が実際に来てくださり、その反響にとても満足しています。ソウルにとって重要な一週間だったと思います。韓国のクライアントだけでなく、アジアのクライアントたちにもっと近づくことができましたね。
──今回の展示で驚いたのは、非売の展覧会でありながら、作品の質が(もちろん価格も)高いことですね。
ベリン クリスティーズは毎シーズン、カテゴリーを越えて、最高の品々を扱っています(11月にはポール・アレンのコレクションセールを開催し、これは10億ドルを超える史上初のコレクションになる見込みです)。今回のベーコン/ゲニー展を企画する際にも、当然、多くの優れた作品にアクセスすることができました。我々はクライアントとの信頼関係があるので、ベーコンのような高額作品を借りて展示することができるのです。美術館の学芸員からも、企画展に作品を出したいのでクライアントを紹介しほしい、というような相談もよく受けますよ。
──今年上半期、韓国人顧客による購入額は前年同期比235パーセント増となったようです。その要因はなんでしょうか。
ベリン 韓国には、20世紀後半に大きな成功を収めた伝統的なコレクターがいます。ここ数年は伝統的なビジネスだけでなく、暗号技術などで成功しているミレニアル世代の若いコレクターも多く出てきており、韓国のコレクター界に新たなエネルギーをもたらしています。また、K-POPスターのようなインフルエンサーもアート収集をアイデンティティを確立するための重要な手段にしていて、若い世代に浸透していると思います。
──国際的なアートフェアやギャラリーが次々とソウルに進出しています。韓国のマーケットに惹きつけられる原因は何だと思いますか?