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2022.12.31

東博150年、環境活動家の美術館襲撃、静嘉堂文庫美術館オープンまで。2022年のベスト記事10選

2022年のウェブ版「美術手帖」で、もっとも読まれた記事を紹介。人気の記事で今年を振り返ってみてはいかがだろうか。

東京国立博物館
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 2022年のウェブ版「美術手帖」で、もっとも読まれた記事ベスト10を紹介。年末年始に今年を振り返りながら読み返してみてはいかがだろうか。

※今年公開された記事を対象に、2022年1月1日〜12月25日の期間で累計ページビューを計測した。

インパクトの大きかった東博の国宝展

展示風景より、長谷川等伯筆《松林図屏風》(16世紀、桃山時代)

 2022年のウェブ版「美術手帖」でもっとも読まれた記事は「史上初、国宝89件をすべて展示へ。東博創立150年を記念する特別展」(5月20日)だった。

 日本でもっとも長い歴史を持ち、また規模としても最大級を誇る東博を代表する所蔵品を一挙に公開するという、前代未聞の展覧会。事前告知の時点ですでに多くの注目を集めていた。

 展示されたのは長谷川等伯筆《松林図屏風》(16世紀、桃山時代)、狩野永徳《檜図屏風》(1590、安土桃山時代)、平安時代の《地獄草紙》《餓鬼草紙》や岩佐又兵衛筆の《洛中洛外図屏風(舟木本)》(17世紀、江戸時代)など、誰もが歴史や美術の教科書で目にしたことがある作品だ。展覧会のレポート記事はこちら

西洋絵画への高い関心

ジャン=オノレ・フラゴナール かんぬき 1777〜1778頃 キャンバスに油彩 74x94cm パリ、ルーヴル美術館
Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom

 2位も展覧会情報記事で「ルーヴル美術館展、2023年に国立新美術館で開催へ。テーマは『愛』」(9月16日)となった。

  ルーヴル美術館の膨大なコレクションから精選された70点余りの絵画を通して「愛」の表現の諸相をたどる、これまでにない趣向の本展。ルーヴル美術館という世界有数の美術館の名品が来日するとあって、多くの注目を集めた。西洋美術への注目度は、変わらず高いといえる。

 本展は西洋社会における様々な愛の概念が絵画芸術にどのように描出されてきたのかを、ヴァトーやブーシェ、フラゴナール、ジェラール、シェフェールなどの名画を通して紹介。16世紀から19世紀半ばまで、約350年にわたる愛の表現の諸相を紐解くものとなる予定だ。なかでもジャン=オノレ・フラゴナール《かんぬき》は26年ぶりの来日とあって、とくに注目される。

都内美術館のレストラン・カフェ事情を知りたい

「Café 1894」内観 提供=三菱一号館美術館

 3位は「『Café 1894』から『NEZUCAFÉ』『HARIO CAFE』まで。都内で行くべきミュージアムカフェ・レストラン10選」(4月10日)だ。

 美術展レビューブログ「青い日記帳」を主催する中村剛士による本記事は、美術館のもうひとつの魅力である併設のカフェ・レストランをまとめたもの。ジョサイア・コンドル設計の銀行建築を忠実に再現した三菱一号館美術館の「Café 1894」や、都心にありながら豊かな自然を静かに楽しむことができる根津美術館の「NEZUCAFÉ」などが紹介されている。

 各カフェのおすすめメニューや知られざる注目ポイントなども案内されており、美術館の楽しみをより広げるガイドとして、多くの閲覧数を集めたようだ。

注目を集めた環境活動家の美術館襲撃

Just Stop OilのTwitterより

 4位は、今年の美術界を震撼させた環境活動家による美術館襲撃事件の速報「環境活動家がゴッホの《ひまわり》にトマトスープを投げつけ。作品は無傷」(10月14日)だ。

 ロンドン時間の10月14日午前、環境活動団体「Just Stop Oil」のメンバーが、ゴッホの《ひまわり》に対しトマトスープと見られる赤色の液体を投げつけるという騒動を巻き起こした。作品そのものへの被害はなかったものの、以降、環境保護を名目とした活動家による美術館襲撃事件がヨーロッパを中心に頻発するようになる。

 6位にランクインしたのも、同月に起きた美術品襲撃事件を報じる「今度はモネの《積みわら》。またも名画が環境活動団体の被害に」(10月24日)だ。ドイツの環境活動団体「ラスト・ジェネレーション」の支持者2人によって、モネの《積みわら》にマッシュポテトが投げつけられた。以降もヨハネス・フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》ゴッホ《種をまく人》アンディ・ウォーホルの「キャンベル・スープ缶」シリーズムンク《叫び》など、美術史に残る名だたる名作が標的となっており、美術界に突きつけられた大きな課題だったといえる。

博物館法改正に物申す

文化庁

 5位には「博物館法、お前もか」(2月23日)がランクイン。今年2月2日に博物館のあり方を定義する「博物館法」の改正案が閣議決定されたことを受け、博物館法が専門の名古屋大学教授・栗田秀法がその問題点を指摘した記事だ。

 「理念上は社会教育施設だった博物館が名実ともに文化観光施設となること」や、「専門職館長の配置や学芸員の処遇改善、調査研究環境の向上等に向けての方策がなんら示されることなく、努力義務ばかりが増える状況のなかで登録博物館離脱の館が今後増大する」ことに対する懸念など、非常に重要な指摘が記された記事だった。SNSでも本記事を土台に、博物館・美術館の今後についての議論が起こるなど反響も大きかった。

草間彌生とルイ・ヴィトンの共演

渋谷スクランブル交差点の展示風景より ⒸLOUIS VUITTON / DAICI ANO

 7位は「草間彌生とルイ・ヴィトンが東京都心をジャック」(11月30日)だ。

 2023年1月1日、ルイ・ヴィトンが草間彌生とともにコレクションを日本と中国で発売。ルイ・ヴィトンのシグネチャーとなるシェイプや新作モデルに、草間彌生が強いこだわりを持つ水玉模様や《ナルシスの庭》で馴染みがあるミラーボールなどがあしらわれる。

 このコレクションのリリースを前に、都内各所では草間彌生とルイヴィトンによるコラボレーション展示が11月30日にスタート。新宿、渋谷、東京駅、増上寺・芝公園の各エリアを会場に、AR(拡張現実)を駆使した展示が行われた。

 ルイ・ヴィトンと草間という、ファッションとアートの巨人が手を結んだ企画とあって、アートファンのみならず幅広い世代や属性の人々の注目が集まった。

静嘉堂文庫美術館、移転オープン

静嘉堂文庫美術館のホワイエ

 8位は新たにオープンした美術館のレポート「静嘉堂文庫美術館が丸の内に移転・開館。130年の時を超え、都心の新たなアートスポットに」(9月30日)だった。

 岩﨑彌之助(1851〜1908、岩崎彌太郎の弟で三菱第二代社長)とその息子・岩﨑小彌太(1879〜1945、三菱第四代社長)による父子二代のコレクションを礎とした静嘉堂文庫美術館。国宝7件と重要文化財84件が含まれたそのコレクションは、日本のプライベートコレクションのなかでも重要な位置を占める。

 同コレクションを一般公開するために、世田谷区岡本に開館し、2021年まで同地で活動を続けてきた静嘉堂文庫美術館が、今年9月に三菱と縁のある東京・丸の内の「明治生命館」に移転開館した。

 記事では重要文化財である明治生命館の意匠を活かした館内や、同館所蔵品として高い知名度を誇る国宝《曜変天目(稲葉天目)》の新たな展示スペースなどを紹介。新たな美術館への期待に応える記事となった。

高い人気を誇るディオール展

「ディオールの夜会」展示風景より

 9位は「クリスチャン・ディオール、 夢のクチュリエ」展、東京に巡回。75年超える歴史を振り返る」(10月12日)だ。

 2017年のパリ・装飾美術館を皮切りにロンドン、上海、ニューヨーク、ドーハで話題を集めてきた展覧会「クリスチャン・ディオール 夢のクチュリエ」の、日本上陸を伝える本記事。

 12月21日に始まった同展のレポート記事を見ていただくとわかるとおり、過去から現在までのアクセサリーやオートクチュール モデルの数々を、ダイナミックな展示によって見せる壮大な展覧会となっている。

NFT自販機とは?

松田将英 Lunatic Pandora 2022 Photo by Naoki Takehisa

 10位は新宿・歌舞伎町の中心部にあるアートスペース「デカメロン」の店先に、日本初となるNFT自動販売機が設置されたことを伝える「NFT自動販売機が歌舞伎町に出現。その狙いとは?」(5月10日)がランクインした。

 この自販機、じつはアーティスト・松田将英によるインスタレーション《ルナティックパンドラ》。販売しているのは銀の封筒に包まれた《THE LAUGHING MAN》の会員カー ド、NFCタグ(初回限定版のみアクリルキューブ)、6月に行われる会員限定の展覧会「Magic Number」のチケットで、指定フォームに会員番号とウォレットアドレスを送信すると、NFTが配布される仕組みだ。

 NFT元年と言われた昨年に引き続き、今年も様々なNFT関連のアクションが行われた。ダミアン・ハーストがNFTと実作品を破壊するパフォーマンスを行ったり、入江泰𠮷記念奈良市写真美術館がNFT美術館をオープンさせるといったアクションを報道する記事も、幅広い層に読まれた。

 注目の展覧会から環境活動家の美術品襲撃、博物館法の改正まで、今年も「美術手帖」では美術にまつわる様々な情報をお伝えしてきました。来年も読者の期待に添える記事が出せるよう、スタッフ一同尽力いたします。