内藤礼作品と民藝、そして「土徳」を感じる富山の旅へ
富山・砺波平野に広がる農村景観「散居村」。ここにある2つのアートな宿泊施設「杜人舎」と「楽土庵」で、民藝と現代美術を楽しむ旅に出かけてみよう。
散居村に新たな風を
敷地の南西側に「カイニョ」と呼ばれる屋敷林を有し、東向きに立つ伝統家屋「アズマダチ」の建築が特徴的な富山県・砺波平野の「散居村」(広い耕作地に民家が点在する集落形態)。16世紀頃から約500年の歳月をかけて形成されたこの風景を維持しようとする動きがある。
220キロ平米もの広大な土地に、20年ほど前まではおよそ2500棟あったアズマダチ。カイニョは防風林であるとともに、建材として利用されたり、道具に加工されるほど重宝され、自給自足の生活が可能なサステナビリティがあった。
砺波には「高(土地)は売ってもカイニョは売るな」という言葉が伝わるほどその存在は重要視されてきたが、時代の変化とともにカイニョを持つアズマダチの数は800棟まで減少している。アズマダチの特徴である太い曲がり梁の材木はいまでは入手が困難であり、一度なくなれば再建は難しい。
こうした状況に危機感を覚え、その風景と文化を残しつつ、地域を活性化する活動を続けているのが2019年に設立された一般社団法人 富山県西部観光社「水と匠」だ。「水と匠」は「富山の土徳(どとく)を伝える」をコンセプトに掲げ、2つのアートホテル「楽土庵(らくどあん)」(砺波市)と「善徳寺 杜人舎(ぜんとくじ もりとしゃ)」(南砺市)を運営。この土地に新たな風を吹かそうとしている。
「土徳」とは何か?
ではそもそも「土徳」とは何か? 富山県西部・砺波地方は、世界的に知られる板画家・棟方志功が戦中前後、疎開をきっかけに約7年ものあいだ暮らし、多くの作品を残した場所。その棟方を訪ねて民藝運動の創設者である柳宗悦もこの地を訪れ、民藝思想の典拠である「美の法門」を書き上げた。「土徳」は柳が名づけたとされる言葉で、この地に伝わってきた。
土徳とは、厳しくも豊かな環境のなかで、人々が自然と一緒につくりあげてきた土地の精神風土のことを指す。上述の散居村は、まさにそれを象徴する存在だ。