「GUCCI COSMOS」を美術館で開催する意義とは? キュレーター マリア・ルイーザ・フリーザが語る
上海、ロンドンを経て、京都市京セラ美術館で幕を開けたグッチの世界巡回展「GUCCI COSMOS」。同展を上海展からすべてキュレーションしてきたマリア・ルイーザ・フリーザに、京都ならではのこだわり、そして京都市京セラ美術館で開催する意義を聞いた。
グッチという「COSMOS(宇宙)」
──最初に大きな質問をさせていただきます。あなたにとって「グッチ」とはどのような存在ですか?
世界中のファッション界でもカリスマ性あるブランドのひとつだと言えるでしょう。100年以上にわたる歴史によって、多くの世代に足跡を残し、生活スタイルにも影響を与えてきたと思うのです。私の母も小さなバンブー バッグを持っていましたからね。いまでも覚えていますが、私が若い頃にグッチのフローラのスカーフをもらって、それを着用することで多くの世代に認められた気がしました。「バンブー」も「フローラ」もそうですが、「これがグッチだと」認識しやすいアイコンを持っているということが非常に重要だと思います。
──この「GUCCI COSMOS」は上海からスタートしました。この展覧会をキュレーションするとなったとき、まず最初に決めたコンセプトはなんですか?
最初、この展覧会のキュレーションを打診されたときは、グッチの歴史の全体像を語ってほしいというリクエストがあったのです。そのオリジンから現在までね。出品作は、フィレンツェにあるパラッツォ・セッティマンニに収蔵されているグッチのアーカイヴから選んでいます。私はこのアーカイヴのことを以前からよく知っていますが、見るたびに新しい発見があるのです。それは時代によっても変わるし、またそのときの自分の状態によっても変わります。
「GUCCI COSMOS」は上海、ロンドン、そして京都で同じ名を冠していますが、じつはその内容は違っています。例えば上海の場合は、会場が工業地帯を再開発した場所に立つ「ウエストバンド・アートセンター(西岸芸術中心)」であり、とても巨大なボリュームを持つ場所でしたから、その建築的な構造も考慮しなければいけなかった。ロンドンでの場合は、ロンドンへのオマージュという意味合いが非常に強く、ハリー・スタイルズが着用した衣装なども展示したのです。
すべての会場デザインを手がけているアーティストのエス・デヴリンとともに、初めてこの京都市京セラ美術館に来たとき、とても感銘を受けました。京都には、西洋からの愛情表現があります。出品作のひとつであるトム・フォードの「キモノドレス」などはその象徴ですね。あれは西洋から見た日本文化へのオマージュであり、今回のひとつの特徴でもあると思います。
──「GUCCI COSMOS」という言葉が示すものはなんでしょうか?
グッチのような大きなブランドの場合、それはひとつの「COSMOS(宇宙)」のようなものだと言えます。宇宙には様々な銀河や星座があるように、グッチの歴史を紡いできたクリエイティブ・ディレクターたちは、それぞれがひとつの星座や銀河のようだととらえることもできますね。そして「バンブー」や「フローラ」「GG(パターン)」などグッチに欠かせないアイコニックなモチーフも、それぞれが惑星だととらえられるでしょう。そうした惑星、星座、銀河などがお互いに関係をつくりあげるように、グッチという巨大な宇宙を構成しているのです。
宇宙はつねに動いています。それはグッチも同じことだと言えるでしょう。
──今回の「GUCCI COSMOS」は、サバト・デ・サルノがクリエイティブ・ディレクターに就任してから初めての開催です。彼とはどのような対話があったのでしょうか?
天文学者が新しい星を発見すると宇宙の地図が変わるように、新しいクリエイティブ・ディレクターが入ることでブランドには新たな視点が生まれます。それもまた興味深い点ですね。
サバトは夢や愛、イタリアンテイストなどをデザインに取り込んでおり、グッチの伝統とサバトならではのロマンチシズムがうまくマッチしています。私が理解しようとしたのはサバトのクリエイティブ・ディレクターとしての視点のみならず、彼がグッチのアーカイヴをどのように探索したいのかという点です。