2024.10.30

人間国宝・黒田辰秋の軌跡を振り返る。回顧展が京都国立近代美術館で開催へ

生誕120年を迎える人間国宝・黒田辰秋の回顧展「生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―」が京都国立近代美術館で開催される。素材を熟知し、木と漆、螺鈿の技法で独自の作品世界を築いた黒田の代表作が一堂に集まる。会期は12月17日〜2025年3月2日。

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 京都国立近代美術館で、「生誕120年 人間国宝 黒田辰秋―木と漆と螺鈿の旅―」が開催される。会期は12月17日〜2025年3月2日。

 本展は、日本を代表する木漆工芸家である黒田辰秋(1904〜1982)の生誕120年を記念し、その生涯と作品を回顧するもの。黒田は京都に生まれ、1970年に木工芸技術で初めて重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。木と漆を使った実用性と美を追求し、従来の分業制に疑問を投げかけ、自ら図案制作から加飾まで一貫して手がけた。

黒田辰秋 赤漆捻紋蓋物 1949 豊田市美術館

 その作品は素材の特性を生かし、実用性と装飾性を一体化させ、命を吹き込むかのような独自の世界観を持つ。古典を重視しながらも、黒田は自身を「個人作家」としてとらえ、自らの作品が「地球と代えられる価値を持つか」という問いをつねに投げかけていた。

 本展では、彼の初期から晩年に至るまでの代表作を通じて、日本工芸史に残した黒田の足跡をたどる。1972年に白洲正子が編集した、黒田にとって自らの創作の軌跡を振り返る貴重な作品集『黒田辰秋 人と作品』に掲載されている作品84件のうち49点が展示される。

黒田辰秋 拭漆楢彫花文椅子(拭漆楢家具セット) 1964 豊田市美術館

 注目すべきは、北海道立旭川美術館が所蔵する晩年の代表作《神代欅彫文飾棚》(1974)や、北海道博物館所蔵の《樺テーブルセット》など、京都で初めて公開される作品。また、初期の代表作である《螺鈿総貼小棚》(1941)も京都会場限定で展示され、螺鈿技法を駆使し、その初期の創作活動を象徴する一品だ。

黒田辰秋 朱漆三面鏡 1934 京都国立近代美術館
黒田辰秋 朱溜栗小椅子 1968 飛騨産業株式会社

 また、黒田が生涯に制作したわずか5点の三面鏡のうち、3点が初めて一堂に集結。ほかにも、動的な彫り模様が特徴的な流稜文の手箱や、1968年に新宮殿の「千鳥の間」「千草の間」用に製作された《朱溜栗小椅子》と《朱溜栗小卓子》も、試作品を含めて展示される。

 黒田の貴重な作品が一堂に会し、その生涯を通じた創作の軌跡を深く理解する機会を提供する本展。ぜひ、黒田が築いた独自の美の世界を会場で堪能してほしい。