2024.10.25

第31回の「ART TAIPEI」が開幕。台湾アートマーケットの新たな一歩

アジア最古のアートフェア「ART TAIPEI」が、今年で第31回目を迎え、台北世貿一館で開幕した。今年初めて台北アートウィークが同時開催されるフェアの様子をレポートする。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

「ART TAIPEI 2024」の会場風景 画像提供=ART TAIPEI
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 1993年から台北で開催されている、アジアでもっとも長い歴史を持つアートフェア「ART TAIPEI」が、台北世貿一館で第31回目の開幕を迎えた。

 同フェアを主催する社団法人中華民国画廊協会は、今年初めて台北アートウィークを同時開催し、台北市内の70軒のギャラリーや18の美術館などと連携し、多彩なプログラムを展開。フェアの開幕前夜、10月23日には台北故宮博物院が夜間特別公開され、VIP向けの展覧会ガイドツアーが行われた。

「ART TAIPEI 2024」の会場風景 画像提供=ART TAIPEI

 今年のART TAIPEIには123軒のギャラリーが参加しており、昨年の144軒より出展ギャラリーが減少したものの、国際的なブルーチップギャラリーであるペロタンや、SCAI THE BATHHOUSENANZUKAなど、地域内の有力なプレイヤーが数年ぶりに参加、あるいは初めて参展している点が注目される。

 2012年以来、12年ぶりに同フェアに参加するペロタンは、今回のフェアでもっとも高額とされる作品、リン・チャドウィックの100万ポンドの彫刻作品をはじめ、村上隆、シグリッド・サンドストローム、リー・ベー、ジョルジュ・マチューらの絵画を展示している。初日には、マチューの絵画が13万5000ユーロ、チャドウィックの彫刻が6万ポンドで売却され、リーの絵画作品8点にも多くのコレクターからリザーブが入っている。

会場風景より、ペロタンのブース

 同じく12年ぶりに参加したSCAI THE BATHHOUSEは、森万里子、宮島達男、何翔宇(ヘ・シャンユ)などの作品を展示。また、今年初めて出展した√K Contemporaryは、比田井南谷、篠田桃紅、浜田浄らの戦後の現代美術家とともに、1998年にペナンで生まれ、東京を拠点に活動しているアーティスト、ネルソン・ホーの線をテーマにしたドローイングや絵画のグループ展を展開。同じく初出展のNANZUKAは、田名網敬一、山口はるみ、ハビア・カジェハなどの作品を展示している。

会場風景より、SCAI THE BATHHOUSEのブース
会場風景より、√K Contemporaryのブース
会場風景より、NANZUKAのブース

 ART TAIPEIの強みは、30年以上にわたる台湾アートマーケットの開拓によって、忠実なコレクター層を築き上げた点にある。また、同画廊協会が台中と台南で開催するアートフェア「ART TAICHUNG」「ART TAINAN」も、それぞれの地域でコレクター層を育てており、これがART TAIPEIにもより多くの顧客をもたらしている。

 今年新たに就任した中華民国画廊協会の理事長・陳菁螢(クラウディア・チェン)は「美術手帖」の取材に対し、「今後は新たな目標として、より多くの若い観客やアートパトロンの育成を目指す」と語っている。

会場風景より

 今年のART TAIPEIは「30+1」というスローガンを掲げており、鑑賞者一人ひとりが友人などを一人連れて来場し、アートを薦めることで、台湾のアートシーンのさらなる発展を図ろうとしている。今後の目標について、陳理事長はこう付け加えている。「より多くの国際的なギャラリーの参加を促し、より多様な議題を提起することで、台湾の鑑賞者やコレクターが芸術鑑賞の経験をより豊かにし、芸術市場の成熟を進めたい」。

 今年のフェアでは、台湾の先住民アートにフォーカスした特別展が第5回目を迎え、エタン・パヴァルン、林安琪(チワス・タホス)、ルビー・スワナ、マレー・マカカズワンの4人の先住民アーティストが、文化やジェンダーアイデンティティ、霊性と自然神性とのつながり、社会や生態系への配慮をテーマにした作品を発表している。

会場風景より、パブリックセクションで展示されている台湾原住民族・パイワン族のアーティスト、武玉玲(アリュアーイ・プリダン)のインスタレーション

 台湾の文化部が推進する「MIT新人推薦特区」も第17回目を迎え、8組の若手アーティストによる作品が展示されている。このセクションはこれまでに136組のアーティストの作品を紹介してきたという。また、今年6月に台北で設立されたチェコの文化機関「チェコセンター」も、初めて同フェアに出展し、「Variety of Stories」をテーマに、ヤン・カドレツ、マルケタ・ヴァンコヴァ、テレザ・シュテティノヴァなどのチェコ現代アーティストの作品を紹介している。

 さらに、今年のフェアでは、世界各国から美術館長やキュレーター、アートパトロンを招き、キュレーション実践やプライベートミュージアムの役割、アートの都市への影響力などをテーマにするトークイベントも開催される。登壇者には、シャルジャ・ビエンナーレのディレクター、アリア・スワスティカやテート美術館のキュレーター、アルヴィン・リー、デルフィナ・ファウンデーションの創設者アーロン・セザールなどが名を連ねている。

会場風景より

 今年のART TAIPEIは、アジア最大のLGBTQ+パレードである「Taiwan Pride」とも初めて同時開催されている。両イベントは今年コラボレーションをしていないが、陳理事長は来年に向けてより多様な連携の可能性を探り、さらに多くの鑑賞者をフェア会場に引き込むことを期待している。また、来年11月には台北市立美術館で第14回台北ビエンナーレが開催され、台北アートウィークもさらに盛り上がりそうだ。今後の展開に期待が高まる。

会場風景より
会場風景より