2025.2.28

「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2025」開幕レポート。40組の若手作家が参加

2018年の初回以降、京都市内を舞台に毎年開催されているアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO」(以下、AFK)。その8回目となる「ARTISTS' FAIR KYOTO 2025」がスタートを切った。そのハイライトをお届けする。

文=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、「マイナビ ART AWARD」最優秀賞を受賞した本岡景太のブース Photo by Kenryou GU
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40組+アドバイザリーボードが参加

 アーティストが自ら出展し、プレゼンテーションを行うというユニークな形式で、数多あるアートフェアのなかでも確固たる地位を確立してきた「ARTISTS' FAIR KYOTO」が、今年で8回目の開催を迎えた。

 同フェアの仕掛け人であり、初回からディレクターを務めるのはアーティストで京都芸術大学教授の椿昇。ベテランのアーティストたちが「アドバイザリーボード」となり、出品若手アーティストを推薦する方式で毎年数多くの作家に作品販売の機会を与えてきた。毎年VIPデーには作家を支援しようというコレクターやビジネスパーソンが多く集い、次々と作品を購入する風景はもはやこのフェアの風物詩となってきた。京都府の西脇知事も、「AFKは日本の若手作家の登竜門となることを目指している。過去の参加作家も活躍しており、若手アーティスト支援を継続してきた結果の表れだ」とフェアの存在感に自信を示す。

会場のひとつである京都国立博物館 明治古都館

 今年はアドバイザリーボードにオサム・ジェームス・中川、津田道子、大巻伸嗣加藤泉名和晃平田村友一郎ら16組が名を連ねる。アドバイザリーボードと公募により選出された若手アーティストは40組だ。参加作家は以下の通り。※()内は推薦者

アンドレス・マリオ・デ・ヴァローナ(オサム・ジェームス・中川)、諫山元貴(名和晃平)、𡧃野湧(公募)、大澤一太(池田光弘)、大角ユウタ(ミヤケマイ)、小笠原盛久(田村友一郎)、岡村よるこ(公募)、岡本里栄(伊庭靖子)、オヤマアツキ(公募)、川村摩那(公募)、吉川永祐 (津田道子)、久保木要(公募)、久保田荻須智広(薄久保香)、熊谷卓哉(ヤノベケンジ)、桑原ひな乃(Yotta)、佐直麻里子(津田道子)、柴田まお(大巻伸嗣)、しまうちみか(ロバート・プラット)、清水信幸(加藤泉)、ジャクリン・ライト(オサム・ジェームス・中川)、白井桜子(大庭大介)、橘葉月(鶴田憲次)、儲靚雯(公募)、土屋咲瑛(椿昇)、寺澤季恵(薄久保香)、中﨑由梨(田村友一郎)、長沢楓(大庭大介)、中村直人(公募)、丹羽優太(椿昇)、林可奈葉(鬼頭健吾)、福田澪(ロバート・プラット)、松井照太(鬼頭健吾)、松尾昌樹(公募)、本岡景太(大巻伸嗣)、山越美佳(公募)、山田千尋(公募)、ヤマモトコウジロウ(Yotta)、山本紗佑里(伊庭靖子)、山本真実江(鶴田憲次)、和出伸一(池田光弘)

 フェア会場となるのは、京都新聞ビル 地下1階と京都国立博物館 明治古都館。またアドバイザリーボードは臨済宗大本山 東福寺で展覧会を開催する。フェアと展覧会のハイブリッド構造がAFKの大きな特徴だ。

 なおAFKでは、参加アーティストの支援を目的としたアワード「マイナビ ART AWARD」も実施。飯田志保子、高橋瑞木、中井康之、椿昇が審査員となり、最優秀賞(賞金100万円)に本岡景太が、優秀賞にはアンドレス・マリオ・デ・ヴァローナ、土屋咲瑛、寺澤季恵、和出伸一が選ばれた。これらの作家を含む40組(+アドバイザリーボード)が集う各会場を紹介したい。

授賞式より、左から椿昇、落合和之(マイナビ執行役員)、和出伸一、アンドレス・マリオ・デ・ヴァローナ、本岡景太、寺澤季恵、土屋咲瑛、西脇隆俊

京都新聞ビル 地下1階

 インダストリアルな雰囲気を残す京都新聞ビルの地下1階は、AFKのアイコンとしてこれまでも会場になってきた。ここで存在感を示すのは、やはり優秀賞を受賞した土屋咲瑛と寺澤季恵だろう。

 「制度的なものに関心を持っている」という土屋は1999年大阪府生まれ。2024年京都市立芸術大学大学院美術研究科美術専攻油画修了。本展では、「地図」をテーマにした映像と巨大な平面を展開した。精密さが求められる地図というモチーフをあえて手書きの有機的な線で表現したそれは、抽象画のように見るものを惹きつける。審査員の中井が言う通り、土屋の作品は「線だけの表現の可能性」を思い起こさせてくれるものだ。

土屋咲瑛のブース
Photo by Kenryou GU

 いっぽうの寺澤は1997年静岡県生まれ。多摩美術大学工芸学科、富山市立富山ガラス造形研究所研究科を卒業し、現在は金沢卯辰山工芸工房でガラス作品を制作している。「生命」を大きなテーマに据える寺澤は、吹きガラスにより膨大なガラスの集合体によって、臓器を感じさせるような大作を完成させた。審査員の高橋は「丁寧かつ力強い作品はすぐにでも国際的に活躍できるレベル」と評しており、さらなる活躍が期待できる作家だ。

寺澤季恵のブース
Photo by Kenryou GU

 そのほか、今年の「VOCA展2025」で「VOCA奨励賞」に輝いた諫山元貴の「複製と崩壊」を軸にしたインスタレーションや、柴田まおによるブルーバックを利用しクロマキー合成した映像・インスタレーション、現在は東福寺塔頭光明院に住み込みで制作活動をする丹波優太の八岐大蛇と素戔嗚の戦いをモチーフにした作品など、見応えのあるプレゼンテーションが目立つ。

展示風景より、手前は諫山元貴のブース
Photo by Kenryou GU
展示風景より、手前は柴田まおのブース
Photo by Kenryou GU
丹波優太のブース

京都国立博物館 明治古都館

 1897年に「帝国京都博物館」として開館した京都国立博物館の明治古都館。宮内省内匠寮の技師・片山東熊によって設計されたレンガ造りの建築が、今年も作品で埋め尽くされた。今年アワードで最優秀賞を受賞した本岡の作品もここで見ることができる。

本岡景太のブース
Photo by Kenryou GU

 本岡は1999年広島県生まれ。2024年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修士課程修了。現在は同研究領域博士後期課程に在籍している。「歪曲張り子」という独自の技法で彫刻作品を制作する本岡。自分で染めた紙を張り付けることで、彫刻と絵画の中間に位置するような作品を生み出している。

 モチーフという前景と、現実の制作環境という背景を融合させ、ひとつの彫刻として成り立たせるユニークさが際立つ本岡の作品。初回から審査員を務める飯田は、「作品の存在感やパワフルさは群を抜くものであり、空間の操作が見てとれる。時代や社会の転換の可能性を感じさせるポータルサイトとしての作品だ」と高く評価している。新たな空間認識の仕方を投げかける意欲作だ。

本岡景太のブース
Photo by Kenryou GU

 本フェアではやや異色の和出伸一にも注目したい。和出は1976年静岡県生まれ。象灯舎の代表も務めている。ここ10年ほどは発表から距離を置いていた和出は今回、描くこと、つくることを一から手探りでとらえ直そうと試みている。

 審査員の椿は「絵を描くという行為は何歳になってもできるし、すべての人類に開かれている。そういう絵画を長い空白の後に再び始めたということに惹きつけられた」と語る。その作品は手筋が読めないものの、伝統的な油絵のマチエールの強さからは目が離せない。

和出伸一のブース
Photo by Mikoto YAMAGAMI

 アンドレス・マリオ・デ・ヴァローナは、キューバの家庭に生まれ、キューバ系アメリカ人としてマイアミで育った。母親の死の後、マイアミから離れるためニューメキシコへ移住。砂漠での生活で、死に対する執着は生への執着と変容してゆき、他者と真に繋がるということの意味を探求するようになったという。

 家族や母親の死をきっかけに写真の世界へと入ったというデ・ヴァローナ。その作品について、審査員の中井は「ロバート・メイプルソープが実現したような均整のとれた美しさ、写真の力を思い起こさせてくれるものだ」と評価する。

アンドレス・マリオ・デ・ヴァローナのブース
Photo by Kenryou GU
展示風景より
Photo by Kenryou GU
展示風景より
Photo by Kenryou GU
展示風景より
Photo by Kenryou GU

東福寺&サテライト会場

 通天橋で知られる名刹・東福寺。その方丈では、アドバイザリーボードによる作品を見ることができる。今年の展示はややこじんまりとした印象を受けるものの、田村友一郎によるルンバ型のブロンズ製香炉《包摂/Subsumption》やそれに対峙する椿昇の《The drifting of the shipwreck "Modernism."》など、多様な作品が揃う。なお、方丈前ではYottaの巨大作品《花子》が迎えてくれる。

展示風景より、田村友一郎《包摂/Subsumption》
展示風景より、手前は椿昇《The drifting of the shipwreck "Modernism."》。奥の平面はオサム・ジェームス・中川の作品群
Photo by Kenryou GU
展示風景より、ロバート・プラット(左)とミヤケマイ(右)の作品群
Photo by Kenryou GU
展示風景より、左から加藤泉の作品群、大巻伸嗣《Drawing in the Dark》、鬼頭健吾《buoyancy of color #12》
Photo by Kenryou GU
展示風景より、Yotta《花子》
Photo by Kenryou GU

 なおAFKではサテライトイベントも充実している。「加藤泉×千總:絵と着物」(千總ギャラリー、2月27日〜9月2日)をはじめ、品川美香個展「その鳥の名前は知らなくても」(京都 蔦屋書店 6F アートウォール、2月12日〜3月7日)、「Up_03」(MtK Contemporary Art、2月27日〜3月15日)など、これを機に京都の街を巡ってみてはいかがだろうか。

「加藤泉×千總:絵と着物」(千總ギャラリー)展示風景より
Photo by Kenryou GU
品川美香個展「その鳥の名前は知らなくても」(京都 蔦屋書店 6F アートウォール)展示風景
Photo by Mikoto YAMAGAMI
「Up_03」(MtK Contemporary Art)展示風景
Photo by Kenryou GU